本業とは関係ないように見える取り組みを紹介する「なぜ、それ、トヨタ」。今回は、MRIを使った脳活動の研究・・ってどういうこと?
人間のようなAIを完成させる秘訣
トヨタが脳研究を始めた理由を、山田グループ長はこう語る。
未来創生センター R-フロンティア部グループ長・博士(工学) 山田整
人が心身ともに心地いい“Well-being”でいるための、普遍的な原理を追究しています。
コロナ禍で働き方がだいぶ変わった。「会社の利益」と「個人の利益」。両方の幸せは何かと考えるようになりました。
何を幸せに感じるかは人それぞれ。でも脳科学の観点で調べると、共通点や大事なポイントがあるのではないか、という発想がきっかけです。
悲しい事件や、心の病など、事象だけ見ていても分からない。人の心はどうなっているのか中身まで踏み込む必要があります。
謎が多い脳。だからこそ研究を続けることで、あらゆる可能性が見えてくる。
山田
いま世の中にAIが広がっていますが、現状のディープラーニングの先に人間のようなAIはできないと思います。
本質は、物理世界を認識するための“頭の中のシミュレーションの仕組み”がどうなっているかです。本当に賢いAIをつくるには、脳そのものの研究も必要です。
他にも、「脳の個性を見える化」できないかチャレンジしているそうだ。
「脳にも個性がある」って本当?
未来創生センター R-フロンティア部主幹・博士(工学) 山口雄平
実はBTCCの中ではMRIの研究と並行して脳波の研究も進めてきました。
例えば、“意識の切り替えが苦手で、集中しすぎる傾向”の強弱が分かるなど、これまでは行動や心理アンケートからでしか分からなかった人の性格を、脳波によって解明できるかもしれません。
どのような状態がWell-beingなのかは一人ひとり異なります。その人にとってのWell-beingを実現するために、人間の個性を理解して見える化する技術が必要です。
脳を研究することで、何をすればスポーツや楽器演奏が上達するか、どうすれば人間同士の「信頼関係」を深められるか、さらには脳卒中の効率的なリハビリまで、応用範囲は多岐に渡ります。
いまの時代、すぐには出口が見えない基礎研究は評価されづらい側面がある。しかし“人間を知る”ためにここでは着々と基礎研究が進んでいた。
トヨタには、グループの創始者である豊田佐吉の時代から、「研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし」という思想がある。その言葉通り、あらゆる領域でパラダイムシフトを起こす研究が今後どのような驚きを生み出すか、是非楽しみにしていただきたい。