
2024年に開かれた技能五輪国際大会と全国大会。トヨタイムズでは、それぞれの大会で金メダルを獲得したトヨタ勢8人による座談会を実施した。
道具へのこだわりは?
――大会本番での難しさを感じた方はいらっしゃいますか。
プラスチック金型・久保日暖(以下、久保)

全国大会は初めての舞台でした。会場はもちろん普段の訓練所と違いますし、後ろから見ている人の数だったり、知らない人の声が聞こえたり、練習にはない独特の緊張感みたいなものがありました。そのせいでミスをすることがないように、いつも通りルーティンというか、水を飲んだり、いつもやっていることを、いつも通りにやるようにひたすら意識していました。

――国際大会に出られた2人は、国際大会ならではの独特の難しさがあったようですね。
自動車板金・小石嵩陽(以下、小石)

自動車板金だと、運営面でのトラブルもありました。もともと初日の競技開始が10時予定だったんですけど、13時までずれ込んで、ひたすら待つ時間があったり、支給された工具の切れ味が悪かったり。そういった中で競技しなければならないっていうのは、国際大会ならではなのかなと思います。

車体塗装・星野悠音(以下、星野)

やっぱり言語が違うので、全国大会だと技能での勝負だけになるんですけど、国際大会になると、まずその技能を発揮するためのコミュニケーションといった部分が一番大事になってくるかなと思います。作業をやっている最中も、このエキスパート * はこう言っているけど、別のエキスパートは違うことを言っていることがありました。人によっても言うことが違いますし、なおかつ英語なので、技能を発揮する以前での難しさも感じました。
*各職種について、国を代表する技能、職業、または技術の経験を有し、競技の運営または、運営補佐をする担当。

――工具のお話がありましたが、ふだん使われている工具が変わると難しくなるものですか。
自動車板金・小石 特に板金だと電動工具だったり、手で使う小さい工具だったり、そういったものがたくさんあります。前回(大会)までは、自分たちの工具を持ち込んで作業できたんですけど、今年から会場で一律で準備するようになってしまいました。手になじまない工具は、実力を発揮する意味ではすごく足かせになったと思います。
――工具への慣れはすごく大事だと思います。山崎さんの道具へのこだわりは?
メカトロニクス・山崎 他の人は何でも、どこでも使えるように工具を多く持っているんですけど、自分は必要最低限のものにして、なるべく1個で多くのものを入れられるものを使っています。軽量化しまくって、たぶん全国の中でも本当に一番軽いぐらいになっています。

メカトロニクス・山崎 メカトロニクスの職種ってパターンがあると思っていて、スピードに特化している人と、正確にミスなく終わる人。自分はどちらかというとスピードに振っているタイプで、たとえミスしたとしても、スピードでカバーする部分が多かった。ベルトが重いと移動速度が落ちてしまうので、年初から3月ぐらいまでずっと「腰道具どうしよう」と悩む時間が多かったなという感じです。
メカトロニクス・唐牛 道具の数は、たぶん3分の1ぐらいまで減っています。
メカトロニクス・山崎 今までは(工具を入れる)大きい箱を付けていたんですけど、それをなくして、移動するときの幅を気にしなくてよくなりました。
メカトロニクス・唐牛 軽量化を始めたのは俺が最初だから。
一同 (笑)。
メカトロニクス・唐牛 重くて、腰が痛くなってきちゃって嫌だなということで軽量化を始めたら、狭い作業エリアで物に引っかかることもなくなって、早く動けるようにもなって、(山崎も後に)ついてきました。
――道具の改良も大切ですね。他の方はいかがでしょう。
試作モデル製作・水野 「松風 * 」というカンナが僕の相棒で、刃も自分で研いでいて、圧倒的な切れ味です。
*アイウッド社が製造するカンナのブランド。

試作モデル製作・水野 (カンナは試作モデル製作で)一番大事なぐらい。試作モデルは、割型というパカッと2つに割れる形になっていますが、木材には温度や湿度で反る性質があります。
木型づくりの中では、型の反りをコントロールする事が非常に難しい技能となっていて、実際に課題の採点でも、型の開きは精度と出来ばえの両方に影響するため、順位にとても響きます。この隙間をなくすために、反る量を考慮した平面をカンナで決めて(つくって)います。

――菅田さんは道具や身の回りの整理にこだわりがあるそうですね。
車体塗装・菅田翔太(以下、菅田)

指導員からは、「結構綺麗好きだね」とは、言われていて…。
車体塗装・星野 本当?汚かったけどなぁ作業場。(注:星野さんは同じ車体塗装職種で、トヨタ工業学園の3期先輩)
一同 (笑)。
車体塗装・菅田 意外かもしれませんが。塗装だと塗料を使うので、いろんな道具に塗料が付いて汚れちゃうんですけど、指導員からも「4S(整理・整頓・清掃・清潔)にこだわろう」と。塗装職種にもいろいろな課題があるんですけど、課題を終える前に時間を取って、全部シンナーで拭いています。

――星野さんは同じ職種ですが、その辺りいかがでしょう。
車体塗装・星野 あんまり綺麗にしてるイメージないんですけどね。
一同 厳しい(笑)。

――ですが、道具を綺麗に整理して使うことは大事ですよね。
車体塗装・星野 はい。スプレーガンという工具で塗装するんですけど、精密な機械なので、塗料が固まってしまうと綺麗に塗装ができなくて減点につながってしまいます。ですので、そういった手入れや、4Sは大事な職種だと思います。訓練の時からみんな綺麗に使っています。
