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捨てていた水素(!?)の活用で仲間づくり 最終戦富士

2024.12.26

モリゾウこと豊田章男会長が自らハンドルを握り、脱炭素の選択肢を拓く液体水素カローラプロジェクト。「この指とまれ」を合言葉に進めてきた仲間づくりを加速させる。

11月17日、スーパー耐久シリーズ2024最終戦の決勝が、富士スピードウェイ(静岡県小山町)で行われた。

レースは赤旗2回、4時間のうち半分が中断となる大荒れの展開だったが、ROOKIE Racing 1号車 中升 ROOKIE AMG GT3(鵜飼龍太/ジュリアーノ・アレジ/蒲生尚弥/片岡龍也)が総合優勝。ランキング3位からの大逆転で、シリーズ連覇を果たした。

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

“液体水素カローラ”こと32号車 ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、5月の富士24時間レースから、体積効率の高い楕円タンクと耐久性を向上させた液体水素ポンプを採用。

荒れたレースで、当初目標とした「ピットストップ3回」に挑戦できる環境ではなかったが、今季初めてレースを完走。航続距離が向上し、ガソリン車と同じ2回のピットストップでレースを終えた。

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

2024年シーズンは幕を下ろしたが、開発は待ったなし。さらなる進化を見据え、レース期間中に、チームから新たな仲間を募るアナウンスがあった。

GR車両開発部 伊東直昭主査(水素エンジンプロジェクト統括)

2021、2022年は気体水素を使って、水素エンジンとクルマを鍛えてきました。2年間でガソリンエンジンと同等の性能を実現しています。

2023年からは水素の搭載技術に目を向け、航続距離を伸ばすために液体水素に切り替えて取り組んできました。

2023、2024年はタンクやポンプなどの液体水素技術の足腰を鍛える“前半ステージ”だったと思います。

これから“後半ステージ”に挑戦するにあたり、さらに技術難易度が上がっていくので、日本の技術を結集して取り組みたく、再度「仲間づくり」をさせていただきたいと考えています

「モータースポーツは誰でも覗くことができる実験室」「みんなが参加しやすいことが水素社会の実現に必要」とはモリゾウこと豊田章男会長の弁。

「爆発」のイメージの強かった水素のイメージを変えるため、自ら水素カローラのハンドルを握り、「仲間づくり」をリードしてきた。

今回の記事では、来季に向けた「仲間づくり」でどういった技術に取り組むのか、また、その先にプロジェクトのどんな姿を描いているのか、取り上げていく。

“捨てていた水素”に向き合う

過去に度々紹介してきたように、液体水素カローラの燃料は、-253℃という極低温の水素だ。これを真空二重構造、いわゆる“魔法瓶構造”のタンクに入れて保温。液体の状態をキープしている。

しかし、液体水素ポンプなど、タンクの中まで貫通している部品からの入熱で、水素は少しずつ蒸発。いわゆる「ボイルオフガス(水素)」が発生する。

走行中は、タンクの中で燃料が暴れるので、その量も増える。これまでは触媒によって水に変えるなど、安全な方法で処理をしていたが、その分、燃料として使える水素が減り、エネルギーのムダが生じていた。

伊東主査が話す“後半ステージ”では、これまで捨てざるを得なかったボイルオフガスを「減らす」「活用する」「処理する」技術開発に取り組む。

なかでも、「活用する」と「処理する」技術に強みを持つ仲間を募集することにした。

ボイルオフガスを「活用する」技術と「処理する」技術。①、②で水素を活用し、それでも残るものは処理する

【活用する技術】①自己増圧器で燃料を圧縮

自己増圧器とは、電力などのエネルギーを使わずに、燃料の圧力を高めることができる装置。ボイルオフガスの状態では圧力が低く、エンジンに使えない。

目指しているのは、この水素を燃料として再利用するため、補助的に24倍の圧力に高めてくれる自己増圧器。

車載できる水素用の自己増圧器は、まだ世の中にないが、技術挑戦が始まっている。

自己増圧器。左のメーターに表示された圧力が増圧後。右が増圧前。

【活用する技術】②FCスタックで発電

MIRAIなどのFCEV(燃料電池車)を動かすような大型のFCスタックではなく、小型、軽量のものを開発中。

自己増圧器で使いきれないボイルオフガスと空気中の酸素を化学反応させて、電気を発生。

これを、液体水素を送り出すポンプのエネルギーなどとして使うことで、クルマ全体のエネルギー効率を上げていく考えだ。

FC小型スタック。車両を走らせるための動力そのものではなく、ポンプなど液体水素関連ユニットを駆動させる用途として想定。

【処理する技術】③触媒で水蒸気へ変換

自己増圧器やFCスタックでも使いきれなかった残りの水素は、触媒を通じて水蒸気にし、安全に車外に放出する。
触媒。従来のクルマにも載せているが、さらなる改良を目指す。

これら3つの技術の開発スピードを上げ、来季中にレースに投入できるよう、仲間づくりを行う。

なお、説明を飛ばした、ボイルオフガスを「減らす」アプローチが20235月に取り組みを発表した「超電導技術」だ。

超電導とは極低温環境下で電気抵抗が0になる現象のこと。現在、タンクの外に搭載しているポンプの駆動部とモーター本体を-253℃のタンクの中にしまうことができれば、(電気抵抗がなくなる分)現在よりも小型・軽量なモーターでポンプを動かすことができる。

これは、タンクを貫通している入熱経路をなくすことにもつながり、ボイルオフガスを半減できるかもしれないという。

この超電導技術は来季中の実用化を目指し、急ピッチで開発が進められている。

チャレンジ精神を持つ会社、求む!

伊東主査

2022年、まだ液体水素のクルマが完成していないにも関わらず、当時、「こういうことがしたい」と(サーキットの現場で)技術展示いたしました。

「技術が不足しているので助けてください」「この指とまれ」とたくさんの企業にご協力いただき、1年で液体水素のクルマが走るようになりました。今回も同じことができたらと思っています。

伊東主査は、目指す姿をこう語る。

まだ、世の中にない数々の技術。仲間に求めるのは技術力? 品質? それともコスト? プロジェクトを担当する山本亮介主幹はこんな期待を寄せる。

山本主幹

チャレンジ精神をお持ちの仲間を募集中です。コストなどはその後についてくると思っていますので、まずは新しいことに、一緒に、積極的に取り組んで、開発のスピードアップにつながることを期待しています。

カーボンニュートラルの選択肢を拓く、液体水素カローラプロジェクト。最終戦以降、すでに複数の企業や団体からコンタクトがあったという。

大きな進化を見据える来季へ、仲間づくりのギヤを上げる。

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