
東京2020オリンピックサーフィン銀メダリストの五十嵐カノア選手を特集。ライフスタイル、サーフィンとモータースポーツの類似性、挑戦を続ける原動力など、深くて熱い話ばかり。そして「夢以上の夢を探そう」この言葉に込めた想いとは?

7月25日のトヨタイムズスポーツは、東京2020オリンピック銀メダリスト、サーフィンの五十嵐カノア選手を特集した。
レクサスアスリートに加わったカノア選手に、地元ハンティントンビーチで40分以上にわたるロングインタビュー。波に乗っている感覚やモータースポーツとの共通点、子どもたちに伝えたいメッセージなどをとことん聞き、“人間 五十嵐カノア”の魅力に迫った。
文武両道で超人的なキャリアを誇るカノア選手が後悔しているのは、自分の子どもの頃の夢が小さかったこと。「夢以上の夢を探すこと」の大切さを語る姿は、子どもを持つ親だけでなく多くの方に観ていただきたい。

文武両道ながら、素顔は気さくな好青年
今年6月にレクサスアスリートの仲間入りをした五十嵐カノア選手は、3歳でサーフィンを始め、2012年に18歳以下の大会を史上最年少の14歳で優勝した。2019年には、ワールドサーフリーグ(WSL)チャンピオンシップツアーの第3戦でアジア人初となる優勝。そして東京2020オリンピックで銀メダルと、日本サーフィン界の顔といえる存在だ。

世界最高峰の大会で戦いながら、ハーバードビジネススクールを修了。さらに英語・日本語に加えてスペイン語・ポルトガル語・フランス語の5カ国語を話す。
森田京之介キャスターが向かったのは、米国ロサンゼルスから車で約1時間のハンティントンビーチ。サーフィンの聖地であり、カノア選手が生まれ育った場所だ。
レクサス GXから降りてビーチに向かう途中、カノア選手に仲間や知り合いがさまざまな言語で声を掛ける。気さくに会話したり、森田キャスターに「ウェットスーツちょっと暑かったかな」と飾らず本音を話したりして、彼が誰からも愛される好青年であることがわかる。
インタビュー前のカノア選手の素の姿は2:16から。
子どもたちにしてほしい「アドベンチャー」
日が沈むのを眺めながら行われたインタビューは11:40から。まず、ハワイの言葉で「カノア」が意味する「自由」について、カノア選手は「朝起きてサーフィンに行けることは、本当に自由なライフスタイル。それが毎日のようにできることがありがたい」と感謝の気持ちを伝えた。
カノア選手はレクサスとの契約締結の際、「外に出てアドベンチャーすることが大切」と話した。子どもたちに伝えたかったという、アドベンチャーの言葉に込められた想いとは?
カノア「アドベンチャーというのは世界を回るというよりも、自分の住んでいるところで新しい場所に行くとか、新しい食べ物を食べるとか、新しいスポーツをやってみるとか、それ以外にもいっぱいある。チャレンジすること、やったことのないことをやること。最近の子どもたちは、もしかしたらそれがちょっと足りないのかなと思って。自由にやりたいことを自分で考えて、こういうことがやってみたいとチャレンジするのがアドベンチャー」
レクサスにもらった日本人としての自信
「クルマに乗ることは毎日のルーティン。クルマに乗った瞬間が、その1日がスタートしたという感じ」と話すカノア選手にとって、トヨタ レクサスの存在は特別なものだった。
カノア「日本人としてアメリカの学校に行って、アメリカ人の考え方はちょっと自分の考え方と違うなと思って、それが寂しいときもあったけど。日本の会社がアメリカに来て、アメリカ人もヨーロッパ人も世界のみんなが日本のクルマを運転しているというだけで、すごくポジティブなモチベーションにもなった。自分も日本人として、グローバルなアスリートになりたいと。トヨタ レクサスが世界のトップのブランドになったことで、自分もできると自信が出て、すごい力をもらった」

「サーファーはいつも波を探している」
刻一刻と変わる自然環境を相手にする、サーフィンというスポーツ。限られた競技時間の中で自分を表現するために、サーファーたちは波を読んで戦略を組み立てているという。
カノア「波と一緒に踊ってる感じ。一本一本の波は違うスピードだし、この波はこういうリズムだ、じゃあ自分はそういうリズムでサーフィンするという読み。それがアートみたいな、サーフィンの一番好きなところかな。
そこから自分のやりたい技とか、最近練習している技とか、大会に点数が出る技を混ぜてみるとか。自分の乗りたいライディングの作戦をつくる感じで、それがまたチェスみたいで面白い。みんな波に乗っているところだけしか見ないけど、それ以外に細かいゲームがある。それがサーフィンの特別な部分。サーファーはいつも、波を読んで波を探している」
シェーパーとの関係やグリップの重要性。モータースポーツとの共通点
板の調整はトップ選手にとって非常に重要で、この日もカノア選手は板を削るシェーパーと連絡を取りあっていたそうだ。モータースポーツにおけるエンジニアやメカニックとの関係と似ている。
カノア「(シェーパーと)毎日電話でしゃべって、1ミリでもすごく大事なので。板の感覚、道具がすごく大切。F1(ドライバー)の友達がいて、電話してメカニックとしゃべってるとき、すごい細かくて英語なのに何言ってるのか全然わからない。でも、俺もシェーパーとしゃべってるときは、何言ってるのかわからないって言われた。
サーフィンでも“グリップ”と言うんだけど、なるべくスピードが出てグリップがある板がトップの板。トップのサーファーは、スピードが出てもすごいコントロールで、絶対に滑らない。グリップがいつもある選手がトップの選手で、(クルマと)すごく似ている。自分の技術もあるけど、サーフボードもそう。そのコントロールできるバランスが大切で、ドライバーと同じ感じ」

「自分の夢は小さかった。夢以上の夢を探すことが大切」
銀メダルを獲得した東京2020オリンピックについて、カノア選手は「2番が一番悔しい気持ち」と振り返りながらも、ロサンゼルス2028オリンピックに向けて「優勝できることは自分も知っているし、優勝するチャンスがまだある。次は金メダルだけが残っているということで、本当に楽しみだなと自分でも思う」と話していた。
同じ東京の銀メダリストである元女子バスケットボール日本代表の三好南穂さんから、事前に「メダルを取った意味はなんだと思いますか?」という質問が寄せられた。自分は「子どもたちに夢を与えるためだった」という三好さんに、カノア選手はこう答えた。
カノア「子どものとき、オリンピックに入る夢はなかった。(サーフィンは)オリンピック競技じゃなかったから、夢よりも遠かったので。それが、夢よりも上のことでメダルを獲ったことが、アスリートとしてポジティブなインパクトがあったのかなと感じて。初めてオリンピックでサーフィンが(正式種目に)選ばれたイベントでメダルを獲ったのは、一生忘れない日。
子どもたちに伝えたいのは、夢って思うよりももっと、それ以上の夢はまだあるということ。夢をよく探すこと、本当に自分がやりたいこと、いつか経験してみたいことを、時間をかけて考えるのは大切だと思うので。
自分はどっちかというと、ちょっと恥ずかしい。なんでサーフィンがオリンピックのスポーツじゃなくても、それが夢じゃなかったんだろう。自分の夢が小さかったと、自分でも思った。それでもいつか、オリンピックでメダルを獲るという夢にしておけばよかった。子どもたちに伝えたいのは、『夢以上の夢を探すこと』が大切だと思う」

夢についての後悔と、子どもたちに伝えたいことを語るカノア選手は38:26から。
「人間として毎日毎日1%を良くする」
ハーバードのビジネススクールで経営学を学ぶなど、サーフィン以外のアドベンチャーにも積極的に挑んでいるカノア選手。普段からさまざまなことから学びや気づきを得て、サーフィンという競技にもフィードバックしている。
カノア「頭の中をサーファーだけというよりも、いろいろなことをやりたくて。勉強も子どものときから好きで、いつかそういう学校に行くんだったらトップに行きたい、だったらハーバードに行きたいという夢で。『カノアはワールドチャンピオンツアーの選手だし、ハーバードの時間なんて絶対ないよ』ってみんなから言われた。そのチャレンジがモチベーションになって、いろいろなことを学んで。一生に持っていくことを勉強できたことは本当にありがたい。
自分のスポーツはサーフィンだけど、人間として毎日毎日1%を良くすることが大切。それは、サーフィンのアスリートとしての自分のレベルも自然にアップしていくということ。ありがたいことに、違う競技のアスリートの友達もいっぱいいて。みんなの考え方を聞いて、サッカーだったら全然練習の仕方は違うけど、自分の身体の気の付け方はこういう考え方もあったんだとか。違うスポーツなのに勉強する部分がいっぱいあって、自分のスポーツにインフォメーションを通していくのは、もう当たり前のこと」
競技への原動力と目標
3年後には、ロサンゼルス2028オリンピックが待っている。地元での金メダルを目指すのはもちろんだが、カノア選手が競技を続ける原動力について、大きいのはやはり子どもたちの存在だ。
「練習して努力して、大会を勝って世界チャンピオンになって。その後に子どもたちに何かを伝えて、いつかその子どもたちが大人になって『あのときにカノアがこういうことを言っていたから、こういう人間になった』と。ポジティブなメッセージを伝えることがモチベーションで、子どもたちに見てもらっているだけで『もっと頑張ってもっと優勝して』と、いつも考えています。
3年経ったら30歳。サーフィンのピークに近づいてきている歳で、地元だし、自分もチャンスだなと思う。次は金メダルというモチベーションもある。それ以外に世界チャンピオンになることも目標で、今年もそれが近いところに来ている。日本人の選手、アジア人のサーファーが増えて、日本はサーフィンが強い国だと言ってもらえることが自分の目標」

「これからが本当のスタート」
インタビューに対しては、放送中に多くのコメントが寄せられた。パラアルペンスキーの森井大輝選手は「道路から砂浜にスロープがあって、しかも砂浜にはマットまで敷いて」と、現地でのバリアフリーが進んでいることを指摘していた。
視聴者の目線でVTRを観ていた森田キャスターは「夢の持ち方で後悔している人を初めて見ました。銀メダルだったから金メダルを獲りたいまでは思うかもしれないけど、なんでもっとでかい夢を持てなかったんだろうなんて、なかなか思えないですよね。だからこそ、今考えている夢よりも大きいものがあるかもしれないと思えば、枠に収まらずに、もっと広い世界に冒険していけるんじゃないかなと思いました」と感想を語った。

カノア選手がWSLのチャンピオンシップツアーに参戦した9年前の体重は68kg。毎年体重を増やしながらサーフィンのスタイルや板の調整を続けて、現在は82kgになった。ようやく理想のウェートにたどり着いたカノア選手がどんな進化を見せるのか、楽しみでしかない!
カノア「これからが本当にスタートだと思う。体重がちゃんと決まって頭が軽くなって、コントロールできることをコントロールし始めた。前までは大体こんな感じでしょうというところが、完璧に決まったところまでやっと来た。自分もアスリートとして楽しみです」
毎週金曜日11:50からYouTubeで生配信しているトヨタイムズスポーツ。次回(2025年8月1日)は、視覚障がいの選手の国際大会「東京2025デフリンピック」の99日前特集。11月15日から始まるデフリンピックに内定している卓球の川口功人選手をスタジオに迎え、円盤投の湯上剛輝選手にもインタビュー。2人の東京大会への想いや、デフリンピックの理念などをいち早く予習する。ぜひ、お見逃しなく!