連載
2025.05.16
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発想の原点は「海苔パンチ」。あるママのひとことから生まれた大きな改善とは

2025.05.16

仕事を楽しく、面白くするための「創意くふう提案制度」。今回は、これまでカッターやハンマーを使っていた細かい作業を、「海苔パンチ」の仕組みでいっきに簡素化した創意くふうをご紹介。

「もっと簡単にできないですかね~?」軽い愚痴から始まった挑戦

「育休から復帰して配属されたのがこの職場だったんです。いつもイライラしながらカッターを使っていて、すごく面倒くさいな、もっと簡単にできないかな? と思っていたんです」。

そう語ったのは、三好工場第2ドライブライン製造部 第2設備課の豊巻文美。

豊巻が所属する組は、生産設備の装置類の再生整備を担当しており、その中でも豊巻は、「焼き入れコイル」の再生整備を担当している。

この「焼き入れコイル」について少しだけ補足を。

エンジンの動力をタイヤに伝える部品、CVJ(等速ジョイント)の構成パーツには、インボード・シャフト・アウターがある。その製造工程に高周波焼き入れという工程があり、その焼き入れをするのが「焼き入れコイル」。豊巻は、この「焼き入れコイル」の再生整備を担当している。

この焼き入れコイルのパーツに「絶縁板」がある。焼き入れコイルの種類ごとに、さまざまな形状の絶縁板を用意する必要があり、再生整備のたびに製作していく。さまざまな大きさや厚みがあるが、なかには0.2mmのテフロンシートでできた絶縁板もある。

冒頭の豊巻は、その0.2mm絶縁板にまつわる創意くふうを提案した。

実際に使用するテフロンシート(絶縁板)。髪の毛1本とほぼ同じ薄さだという

以前は手作業で下図のような工程があり、絶縁板がテフロンシートで薄いうえに、切り抜くサイズが小さく、複雑な形が多いため難しかったという。

写真左:⑤の作業のようす。薄い絶縁板をカッターで切り抜いていた 写真右:切り抜いた後の型紙と絶縁板

豊巻文美

ある日、チームリーダー(豊巻の上司)に愚痴半分で「お弁当で使う海苔パンチみたいにできないですかね~?」と話しました。

海苔パンチというアイデアを温めていたわけではなく、ふわっとした発想を説明するときに偶然出てきた言葉だったんです。

するとチームリーダーからは、「できるんじゃない?」という意外な答えが返ってきた。

海苔パンチとは、文字通り海苔に使うパンチのこと。お弁当作りの便利グッズとして使われており、海苔を挟んで押さえることで、さまざまな表情、図形、動物やキャラクターの形などを簡単に型抜きできるアイテム。キャラ弁づくりの強い味方なのだ。

「海苔パンチがわからない方もいると思って」と取材時に海苔パンチを持参してくれた(豊巻私物)

1カ月あたり約22時間も作業時間低減。「絶縁板パンチ」完成!

チームリーダーは「ハンドプレス機を使えば、一発で打ち抜ける!」という確信のもと、すぐに図面を作成。工場内の機械加工技術者に声をかけ、金型製作まで驚くべき早さで進行していった。

型の幅や高さ調整に苦労したが、構想から約1カ月で理想的な「絶縁板パンチ」が誕生する。

豊巻が手をかけているのが、誕生した絶縁板パンチ

この絶縁板パンチを使った工程は下図のとおり。

細かく複雑だった作業が、誰がやっても同じものが簡単にできるようになった。

プレス後の絶縁板。キレイに型抜きされている

結果、作業時間が1カ月あたり約22時間も低減。カッターで手を切る恐れがなくなり、安全性が向上するなど、画期的な改善となった。

その後、最優秀提案として表彰され、トヨタ社内の年頭挨拶でも、佐藤社長がこの創意くふうの話をするまでに至った。

絶縁板パンチ用の型抜き治具

大きく注目された理由のひとつに、仕事と育児を両立するママらしい「海苔パンチ」が発想の原点だったことがある。

組長の田中武志も、「みんな当たり前の作業になっていて、カッターで薄いシートを切る作業が危ないと思ってもいませんでした。そんななか、豊巻さんの発想で改善することができた。海苔パンチなんて発想は、僕には出てこないですよ」と語る。

三好工場第2ドライブライン製造部 第2設備課組長の田中武志と豊巻文美

時短勤務でも会社の役に立てると自信になった

豊巻文美

時短勤務なので、会社の力になれていないのでは? という想いもあったんです。でも、こうやって役に立てて、認めてもらえたのは嬉しかったです。同僚からも、安全でラクになったと言ってもらえて嬉しいです。

賞金は4万円でしたが、チームリーダーとの共同提案だったので2万円いただきました。家族に宣言して、自分のお小遣いにしたのは覚えていますが、何に使ったのか覚えていないんです。気づいたらなくなっていました(笑)。

これまで「創意くふう提案にはあまり興味がなかった」と話すが、この成功を機に意識が大きく変わったという。

「やりにくい作業があったら、とりあえず言ってみようと思うようになりました。そこから改善が進んで、創意くふうを提案することができ、賞金ももらえるので(笑)」

その後も、別の提案で2万円の賞金を獲得。毎月の創意くふう提案はもちろん、大きめの新しいアイデアもすでに温めているという。

豊巻文美

いろいろと考えることで、問題解決能力が向上していく。また、言葉にすることでさまざまな方とコミュニケーションが取れますし、みんなで協力することで、人との繋がりも生まれるのが創意くふうの魅力だと思います。

最後に「改善とは何か?」を聞いてみた。

「仕事を安全にラクにすることで、みんなが働きやすくなるものだと思います」

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