連載
2025.08.05
シェア: Facebook X

URLをコピーしました

ここも、ここにも、トヨタのからくり。思いやりをカタチにした可動踏み台と作業イス

2025.08.05

仕事を楽しく、面白く! するための「創意くふう提案制度」。今回は、多品種混合ラインをもつ元町工場ならではの悩みから生まれた二つの創意くふうに焦点を当てた。

誰もが無理せずスムーズに作業できる職場へ

まずは一つ目のご紹介。
ある日、元町工場に配属された女性技能員が、背伸びをしながらインパネの裏側の部品を取りつけていた。四苦八苦する姿を見た当時の第1組立課チームリーダー・山下勝也は思った。

「これは良くないな。どうにかしないと」

第1組立課 山下勝也

背の高い人であれば問題のない作業も、小柄な技能員にとってはやりにくさがあった。作業台は角度調整ができるため、背伸びすれば何とかなる。しかし、誰もがスムーズに作業できなければ意味がない。

そこで山下が考案したのが「可動踏み台」。

普段は収納され、必要なときだけレバーを押して設置して使う仕組みだ。クランク機構を応用し、90度に接合されたパイプが回転しながら踏み台をスライドさせる。アルミパイプとスライダー、スプリングを組み合わせた構造は、安価ながら滑らかな動作とコンパクトな収納性を実現した。

必要なときだけレバーを押して設置して使う仕組み
「可動踏み台」があると気づかないほどきれいに収納されている
写真左:収納された状態の「可動踏み台」 写真右:レバーを押すと踏み台が手前に出てくる仕組み

当初は引き紐式のアイデアを試したというが、重くて動かず断念。違う工程で使われていたクランク機構に着目し、改良を重ねていったという。就労後の時間を使って作業台をいじり、のべ15時間ほどかけて完成させた。

山下勝也

頑張ってつくっても、使いにくいものは使わなくなるんです。そういうときは何かが違うんだなと再び改善します。

今回は技能員が使い続けてくれているので、良いものができたのかなと思っています。技能員からも、「やりやすくなった」と言ってもらえて嬉しいです。

自分の痛い経験を創意くふうで解決

続いて二つ目のご紹介。
同じく元町工場内の別の場所にある、バックドアワイヤー取り付け工程。ここでは車種によって、クルマの内部へ各種ワイヤーをはわせていく作業がある。以前は男性が体を折りたたむような、無理な姿勢で作業をしていた。

この工程は、かつてバッテリー搭載のみだったが、4つのパワートレーン(ガソリン・HEV・FCEV・BEV)を生産する多品種混合ラインに変わったことで、ラゲージ(後部荷室)内での作業も求められるようになった。

担当者だった第1組立課エキスパート・池田隼人は、自らの経験からその負担を痛感していた。

「電気自動車(bZ4X、RZ)やノア、ヴォクシーの時は、バックドアワイヤーをかがんだ姿勢で取り付けるんです。それが腰にくるんですよ」

第1組立課 エキスパート 池田隼人

冒頭のインパネラインで背伸びが必要になるのも、bZ4XやRZなど一部の車種だった。工程は違うが、どちらも多品種混合ラインをもつ元町工場ならではの問題。一方で、「現場のやりにくさを創意くふうで解決したい!」という熱い想いは同じだった。

池田が中心となって設計した「作業イス」は、クルマのラゲージにスムーズに乗り込み、座ったまま作業できる一体型の道具だ。

階段とイスを合体させ、取っ手部分には工具置き場も設けた。座面は調整可能で、台座部分にはスプリングを仕込むことで安定性も確保した。

関節部にはワッシャーやローラーを内蔵することでたわまないよう工夫。体格差にも配慮し、約100kgの荷重にも耐えうる設計にした。

池田隼人

最初は発泡スチロールを持ってきて、踏み台とイスの代わりにしました。ただ、それだと安全性の問題だけでなく、車内のスタッドボルトに刺さってしまい、削られてゴミが出ていました。
改善を重ねて今の形になりましたが、一体型にしてワンアクションでイスが設置できるよう工夫もしました。苦労しただけに達成感は半端なかったですね。

賞金をもらえる制度から、後輩たちを育てるツールへ

二つの創意くふうには、共通点がある。それは、後輩である若手技能員に提案を託した点だ。

「チームリーダーになると、賞金のために改善しようというよりも、若手に対していかに改善意欲をもたせるかという考え方になるんです。創意くふう提案制度はその大事なツール。提案用紙を書くことも勉強になりますし、結果的に人材育成になればいいなと思っています」(山下)

写真左:山下勝也 写真右:池田隼人

「優秀提案になるとわかっていたので、提案はあえて後輩に任せました。彼らにとって社内アピールのツールになればと思っています。そうすることで後輩たちが育ち、さらに次の世代へとつながっていく。人材は財産ですから」(池田)

創意くふう提案制度の魅力は、改善することで賞金がもらえることだと二人は語る。そして、今では人材育成のツールだと考えるようになっている。だからこそ、彼らは後輩たちに託したのだ。

最後に「改善とは何か?」をぞれぞれ聞いてみた。

「やりにくいことを、やりやすくすることです。しかし、作業する人が変わったり、モデルチェンジなどがあると新たな問題が出てきます。そういう意味で、改善とは終わりがないものでもありますね」(山下)

「進化だと思います。モノや物事の進化形態が改善だと思うので、常に進化して生まれ変わっていきたいです」(池田)

Facebook facebook X X(旧Twitter)

RECOMMEND