
中日スポーツ・東京中日スポーツWeb「トーチュウF1EXPRESS」とのコラボ企画第4弾。昨年からトヨタ陣営に加わった福住仁嶺選手にスポットライトを当てた。

昨年からトヨタ陣営に加わった福住仁嶺(ふくずみ にれい)は、スーパーフォーミュラ(SF)で「Kids com Team KCMG」に所属し、スーパーGTは「TGR TEAM ENEOS ROOKIE」でGT500クラスを戦う。SFでは初年度に2度のポールポジションを獲得し、2度の表彰台に上って存在感を発揮。スーパーGTも変則開催だった今年の第4戦のレース2(8月3日=富士スピードウェイ)でトヨタ移籍後の初勝利を挙げ、続く第5戦(8月24日=鈴鹿サーキット)でも2位表彰台に上り、ランキング2位に急浮上した。
「GTもSFも同じチームで2年目を過ごしています。ともに初めてのテスト、(昨年の)開幕戦から全く違和感がなく、(チームに)なじませてもらっています。フレンドリーで、ドライバーをリスペクトしてくれています」。現場のメカニックとの面識はなかったが、エンジニアやチーム首脳陣とは交流のあった人も多く、違和感なく過ごせているようだ。
SFでは今季序盤に歯車がかみ合わなくなったが、第8戦(8月10日=スポーツランドSUGO)で3位に食い込み、今季初の表彰台に上ったばかり。「結果だけ見ると苦しそうに映るけど、コミュケーションなどの一体感は今年の方が良い」と語り、シーズン終盤に向けて調子を上げていきそうな気配を漂わせている。

長らく在席したホンダでは、2013年に鈴鹿サーキットのレーシングスクールを卒業し、上位カテゴリーへの参戦を支援してもらえるスカラシップを獲得。翌2014年にF4のFCクラスを制し、2015年は全日本F3でランキング4位を獲得し、F1参戦を再開したホンダの後押しを受けて海外挑戦の切符をつかんだ。
F1にも併催されたGP3シリーズ(現FIA-F3)を2年間戦い優勝も経験。2018年にはF1直下のF2にステップアップしたが、2019年には活動の場を再び日本に移し、SFやスーパーGTでタイトルを争う選手に成長した。「ホンダさんには感謝しています。スクール時代も含めると10年以上ですから。本当にいろいろな経験をさせてもらい、海外にも行かせてもらった」と振り返る。
新しい環境に身を置く思いで、2024年からトヨタへの移籍を決断した。「移籍して良かったということではなく、今は(ホンダ時代の)経験を生かせていると思う。だからこそ悪くないシーズンを過ごせていると思うし、全てがポジティブな方向に進んでいると思う」。メーカーの枠を超えた移籍という問題ではなく、一人のレーシングドライバーが試行錯誤を繰り返しながら経験を積み重ね、その一つひとつが血となり、肉となっているようだ。
「現在所属しているチームの方々や、ホンダ時代にお世話になった方々など、多くの方々に感謝の思いでいっぱいです。本当に多くのことを学ばせてもらいました」。心技体も含め、現在の自分を作り上げてくれた人々への感謝を、忘れることはないという。
そんな激動の日々を過ごしてきた福住の目標は、「まずは結果で恩返ししたい」という。そして「KCMGはシートがあるか分からない状態だった僕を選んでくれ、トヨタさんとROOKIE Racingはこんなチャンスを与えてくれた」と力説。安心して戦える環境を整えてくれた恩に報いる勝利であり、タイトル奪取で恩返しするため全力を尽くすことを誓う。
その先に見据えるのは、海外への再挑戦だろうか。トヨタはモリゾウこと豊田章男会長のドライバーに寄り添う方針から、国内レースで結果を残した選手に貴重なチャレンジの機会を提供している。昨年のSFとスーパーGTをダブル制覇した坪井翔が、今年8月上旬にMoneyGram Haas F1 Team(Haas)のTPCテストに初参加したのもその一環だ。すぐにF1参戦につながるものではないだろうが、レーシングドライバーとして世界一速いクルマに乗れる夢はかなえられるだろうし、新たな選択肢が生まれるかもしれない。
「僕は移籍組ですが、坪井さんのようなチャンスをつかみたい。それがかなえられるのが、今のトヨタだと思います。そのために結果を積み重ねたい。チャンピオンを取って『福住どうだ?』と言ってもらえるような準備をしていきたい」
結果を残すのは大前提ながら、それだけではチャンスは訪れない。これまでさまざまな経験を重ねてきたが、その前向きな姿勢は今でも崩していない。今季はSF&スーパーGTに加え、ROOKIE Racingの一員としてスーパー耐久シリーズに参戦し、GT車両で争うGTワールドチャレンジ・アジアにもトヨタ系チームのKチューンズから参戦。「ものすごく忙しいけど、一つひとつが貴重な経験だと思ってチャレンジしている。きっとこの先につながると思う」と力を込めた。
酸いも甘いも経験してきたが、まだ28歳。大いなる可能性を秘めている。「結果を残していくと、自然とチャンスがやってくるものと思っている。そんな立ち位置でいられるよう、精進していきたい」。トヨタをしょって立つドライバーが、また一人、誕生しそうだ。