
トヨタの2025年3月期決算説明会。佐藤恒治社長は足場固めの進捗とクルマの未来を変える挑戦のテーマを語った。そのスピーチ全文を掲載する。
2025年度はマルチパスウェイの解像度が高まる年
なお、会見のスピーチの後に行われた質疑応答でも、この重点テーマに関わる質問がいくつか上がった。
――2025年度はどのような年になるか? 電動化、知能化、多様化を進めていく中、2030年に向け、どう事業を展開していくのか? ハイブリッド車の売れ行き、PHEV(プラグインハイブリッド車)、バッテリーEVの収益力について教えてほしい。
佐藤社長

電動化のトランジション(移行)に対して、世界中の風速や実態が見えてきました。
地域に応じて、具体に落としていくスピード感やその内容がより分かれる、解像度が高くなっていく年になると思います。
例えばバッテリーEVは、グローバルに全体的な議論をしていた時代から、明らかに中国の風速は速く、単なる電気自動車ではなく、知能化とセットでモビリティの進化を促していくものになってきている。
その風速の速いところに身を置き、先端技術をしっかり取り込みながら、モビリティの構造改革を牽引するプロジェクトとして進めていく。そういうことをもっと深くやっていきたい。
現実的にバッテリーEVシフトの減速がある程度見えている時代とはいえ、カーボンニュートラルを実現していく手段は多方面に求められる。エネルギー環境も含めたアプローチが非常に重要な局面になっていると思います。
今年は特に、e-fuel(合成燃料)、バイオ燃料等、燃料側からカーボンニュートラルを実現していくアプローチは非常に重要なポイントになると思っています。
ハイブリッド車、PHEVを軸として、カーボンニュートラル燃料を組み合わせてプラクティカル(実用的)なソリューションづくりを加速させていく。
基本の軸は変わらず、一つひとつの要素の解像度を上げていく年になると思います。
もう一つ、我々がこだわっているのは、環境づくりです。単純にクルマ単体の進化を促しても、モビリティが普及することにはならない。
例えば、バッテリーEVや水素はエネルギーやインフラ、法整備も含めて、周辺環境が同時に整わず、モビリティ単体の進化だけで普及期を迎えるのは相当難しいのが実情だと思います。
ですので、総合的な取り組みを我々自動車産業の外、例えばエネルギー産業、IT産業の方々と連携しながら、あるいは、国、行政の方々と手を取り合いながら、環境構築、基盤づくりをやっていく必要がある。
その基盤づくりに、より力を入れていきたいと考えています。
――バッテリーEVが今期15万台以上増えて31万台になると見通している。一方、2023年時点の計画では「2026年までに年間150万台つくる」としていた。この計画は見直している段階なのか? バッテリーEVの販売戦略を教えてほしい。
佐藤社長
バッテリーEVの販売が15万台以上増える計画の背景には、新車投入効果が取り込めるようになるという見通しがあります。
2026年に150万台、2030年に350万台(販売)という基準をお示ししたことについては、我々は実需を見ながら基準を置いています。
実需は変わるものなので、そのペースが変われば、基準を変えていくということだと思います。
(2026年に150万台という数字は)サプライチェーンの準備を進めて、投資のタイミング等々を図っていくための一つのモノサシです。
各地域でバッテリーEVに対する実需やペースが、リアリティある形で見えてきたので、それに基づき、150万台という数字は見直しをかけています。
――得意のハイブリッド車が好調な一方、「プラクティカルなバッテリーEV」と言われているPHEVが伸び悩んでいる気がする。水素も今までの盛り上がりに比べると少しトーンダウンしている印象。佐藤社長が(GRカンパニーの)プレジデント時代に始まったモータースポーツの現場での水素エンジンの開発も5年目を迎える。その進捗を教えてほしい。
佐藤社長
マルチパスウェイ戦略は堅持していくつもりです。内燃機関のさらなる進化、ハイブリッドシステムのさらなる効率化に資する技術開発は手を止めずにやっています。
小型化、高効率化、出力特性をさらに高めていく技術開発が進んでおり、パワートレーンの進化を促していく取り組みはもっともっと続けていきたいと思っています。
燃料、エネルギーによって、普及への道筋やペース配分がずいぶん違うのを実感しています。
水素の最大の課題は水素そのものの素性にこだわるがゆえに、非常に高いエネルギーになってしまっていること。
「エネルギーコストが高い」=「普及の非常に大きな壁になる」ので、我々自身がしっかりオフテイカー(サービスや製品を購入する立場)になっていくためにも、水素の消費量を増やしていく取り組みを、しっかりやらないといけない。
もちろん、乗用でも頑張っていきますが、商用だと60倍ぐらいの感度があります。トラック1台と乗用車1台だとそれくらい違うので、普及のペースに乗せていく取り組みをしっかりやって、コストを下げていく努力をしたときに、やっと水素エンジンの技術が生きてくると思います。
水素エンジンでの燃焼そのものの制御はある程度手の内化してきています。あとは効率。水素の難しい燃焼ができているからこそ、内燃機関の燃焼効率も高められる。
ですから、バイオ燃料やe-fuelを使うエンジン技術に対して、得られるメリットが見え始めています。
水素を発端に輪が広がってマルチパスウェイに相互作用が起きているのが今の状態です。そうしたことがだいぶ見えるようになってきました。
S耐(スーパー耐久)での水素の取り組みは続けてまいりますので、引き続き応援をいただけると大変ありがたいなと思います。
会長の豊田(章男)が自らハンドルを握って、水素社会に向け、先頭に立って取り組んでいるテーマです。我々自身もそのための多方面の取り組みを同時並行で、絶対に諦めずにやっていきたいという決意を改めて申し上げたいと思います。
