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「道がクルマを鍛える」を考える S耐富士24時間からニュルへ

2025.06.13

「S耐富士24時間」をレポート。生中継したトヨタイムズスポーツでは、今回のテーマを「道がクルマを鍛える」を考えるとした。その真意とは?

2025年5月31日~6月1日、富士スピードウェイにて“S耐”こと「スーパー耐久シリーズ2025」の第3戦、「スーパー耐久第3戦富士24時間レース(S耐富士24時間)」が開催された。

挑戦5年目となる水素エンジンを搭載したGRカローラをはじめ、新燃料でカーボンニュートラル化を目指すGR86や、次世代変速機のDATを搭載したGRヤリスの活躍を中心に、間近にせまった「ニュル24時間」も見据えた奮闘をダイジェストでお届けする。

今年も「富士24時間レース」を生中継!

豊田章男会長が「参加型の割り勘レース」と表現するスーパー耐久シリーズ(S耐)は、FIA公認のGT3規格のマシンで争う「ST-X」を筆頭にした10のカテゴリのクルマと、プロとアマチュアのドライバーが入り混じる国内耐久レースの最高峰。

とくに第3戦となる「富士24時間レース」は、年に一度の“お祭りレース”となる。

トヨタイムズスポーツでは、金曜の通常放送で“ミスターGT”こと脇阪寿一氏らをゲストに迎え、2025年の「S耐富士24時間レース」の見どころを紹介。

翌日からの生中継では、今井優杏キャスターや竹中七海アスリートキャスター、トヨタアスリートたちも加わり、総動員体制でチームを応援した。

5/31(土)・6/1(日)#1スーパー耐久 富士24時間レース生中継
https://youtube.com/live/IGlK4P1NV3k
5/31(土)・6/1(日)#2スーパー耐久 富士24時間レース生中継
https://youtube.com/live/haVOB8dwlvs
5/31(土)・6/1(日)#3スーパー耐久 富士24時間レース生中継
https://youtube.com/live/aVuZWSKESkU

スーパー耐久富士24時間2025 / ニュルブルクリンク24時間2025 特設サイト
https://toyotatimes.jp/24h_race_2025/

2025年のテーマは「道がクルマを鍛える」を考える

「道がクルマを鍛える」とは、「過酷な道や本物の走行環境で走らせることで鍛えられて初めていいクルマとして完成する」という、豊田章男会長の哲学を端的に表した言葉だ。

木曜の朝礼でも、豊田章男会長ことモリゾウ選手は「これまで我々は、モータースポーツを起点とした“いいクルマづくり”と“水素社会という未来への架け橋となるモビリティ”に取り組んできました。週末に行われる富士では、ここにいる全員を24時間後にヒーローにするのが私の願いです」とスピーチした。

また、6月21日にドイツでは「ニュルブルクリンク24時間レース(ニュル24時間)」が開催される。

6年ぶりのニュル参戦について豊田章男会長は、森田キャスターによるインタビューに「道の厳しさはニュルと日本とで格段の差はあるものの、S耐の活動はニュルに通じている。両方を合わせることによって、“モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり”をみんなが考えると思う」と、その意義を説明。

「“ニュルってこういう場所”ということは、それぞれの人が自ら考えるべきで、僕が教えることじゃないと思う。(中略)だから、考えただけの答えがあるかもしれない。でもそれでいいんじゃないかなと思う」ともコメントしていた。

さらに豊田章男会長は森田キャスターに「なんでニュルなのかな?と、トヨタイムズ(スポーツ)を見た人にも考えてもらいたい。見てくれている人がそれぞれの考えを持ってくれるとありがたい」と提案。

それを受け、S耐とニュルという2つの耐久レースをどう伝えるかを考えていたトヨタイムズスポーツでは、「『道がクルマを鍛える』を考える」を生中継のテーマに掲げることとなった。

「自分も悩みながら答えを出してきた」とも語る、モリゾウ選手のインタビューの模様はコチラ

さらに、「ニュル24時間レース挑戦の歴史 マスタードライバー・モリゾウの原点」と題された動画もご覧いただきたい。

“水素エンジンカローラ” TGRR GR Corolla H2 concept

今回の耐久レースにトヨタは、「TOYOTA GAZOO Racing(TGR)」と「ROOKIE Racing(ルーキーレーシング)」がワンチームとなった「TOYOTA GAZOO ROOKIE Racing(TG-RR)」という新たなチームで参戦。

「TOYOTA GAZOO ROOKIE Racing」から出走する32号車は、液体水素を燃料とするエンジンを搭載したGRカローラである、“水素エンジンカローラ”こと「TGRR GR Corolla H2 concept」。

水素エンジンとは、水素で発電したバッテリーでモーターを駆動する燃料電池車とは異なり、水素を内燃機関で燃やして走るという、これまで培ってきたガソリンエンジンのフィーリングと技術を未来へ継承するための技術。

2021年に始まったトヨタの富士24時間での水素エンジン車のチャレンジは今年で5回目となる。

昨年は、気体水素燃料からより充填密度の高い液体水素バージョンに変わった二年目。“マッチ”こと近藤真彦選手がモリゾウとともに参戦したが、クルマのトラブルで最終コーナーで立ち往生してしまった。レース後半は電気系統のトラブルに悩まされる。

水素エンジンのパワーユニットに問題はなく、目標であった「1回のスティント(給水素)で30周以上走る」を達成し完走はしたが、水素エンジン以外の部分でのトラブルが原因で力を出しきれずに悔しい結果となった。

昨年のS耐富士24時間のレポート記事はコチラ

今年のクルマには、水素燃料の噴射量を燃費重視とパワー重視で切り替えできる機能を搭載。また、岩谷産業が手がける給水素機も大幅に進化するなど、タイムと航続距離の両面での性能向上を目指したブラッシュアップが施されている点にも注目が集まった。

カーボンニュートラルを目指す低炭素ガソリンマシン

28号車の「TGRR GR86 Future FR concept」は、低炭素ガソリン(E20)を燃料として搭載するGR86。

低炭素燃料とは、トウモロコシやサトウキビなどを発酵させて生成したバイオエタノールを20%ガソリンに混合した燃料のこと。

走行時に二酸化炭素を発生させるものの、原料となる植物が生育中に大気の二酸化炭素を吸収しているのでトータルでのCO2排出量は少ない。また、すでに普及しているガソリン車にも応用することで、カーボンニュートラル社会の段階的実現に大きく貢献すると期待されている。

ドライバーにはSUPER GTとスーパーフォーミュラの両レースを制した坪井翔選手と、女性限定のレースシリーズであるKYOJO CUPの2024年の覇者である夫人の斎藤愛未選手が参加。夫婦での挑戦にも注目が集まる。

DAT採用の「GR Yaris DAT Racing Concept」

「GR Team SPIRIT」からは、MT車のようなスポーツフィールが味わえる次世代オートマチックトランスミッションの「DAT(Direct Automatic Transmission)」を採用した「GR Yaris DAT Racing Concept」が出走。

レースの合間、ライブ配信に駆けつけてくれた山下健太選手は、「ドライバーが何もしないでも適切なタイミングで自らシフトアップ・ダウンを自動でしてくれるので、初めてサーキットを走るドライバーにも好評でした。ただ、シビアな状況でコンマ数秒を狙うときは、まだ自分の操作の方が早い場面もある。この24時間のレースで少しずつ詰めていっている段階で更に早くなる可能性も感じている」と語り、今後の課題への手応えも感じているようだった。

なお3台ともに、参加カテゴリは開発車両が参戦する「ST-Q」クラスだ。

スタジオに生出演した山下健太選手と坪井翔選手の模様はコチラ

雷雨に悩まされつつ23時間の戦いがスタート

明け方からの雨はスタート時間の15時に激しい雷雨となり、レースは1時間遅れの16時よりスタート。

レース序盤には数台の車両がトラブルでストップしたが、セーフティカー先導のもと、比較的順調にスタート。終了時間に変更はないため、23時間でのレースとなった。

水素カローラのファーストドライバーを務めるのは中嶋一貴選手。元F1ドライバーでル・マン24時間レースを三連覇した経験を持つ中嶋は危なげない走りで周回をかさね、小倉康宏選手にチェンジした。

そしてすぐさまモリゾウ選手や石浦選手らに感触をフィードバックする。

翌日、中嶋選手は生放送のゲストとしてスタジオに登場。スタート時のファーストドライバーを務めた経緯について「天候も読めないという情況で、佐々木さんや石浦くんがやると思っていたら自分の名前があったので初めは冗談だと思いました(笑)。ですが冗談ではなく大役をいただいたので、けっこうシビレました」とコメント。

初めて水素エンジンでのレースであるだけでなく、モリゾウ選手とのクルマをシェアする初めての体験をお祭りとして心から楽しんだのだと話してくれた。

スタジオに生出演した中嶋一貴選手の模様はコチラ

また、28号車のファーストドライバーを務めた豊田大輔選手は「クルマの反応は良くなってきている。ニュル24時間のいい練習になった」とピットでレポートする今井キャスターに話してくれた。

夜から早朝までセーフティカーが先導する異例の展開

レースは夜になると、クラッシュによるイエローフラッグ、濃霧によるレッドフラッグとなり、早朝までのおよそ7時間30分はセーフティカーが先導する状態に。坪井選手が「セフティランが上達した」とジョークにするほど膠着した。その後、午前7時30分にはレースが再開され、大きな事故もなく各車は快調に周回を重ねていった。

斎藤選手と夫婦での参戦となった坪井選手は、「同じクルマに乗るので言い訳ができない」と笑いながらも、「男性では気がつかない問題点をフィードバックしてくれるので開発するうえで助かっている」ともコメントしていた。

スーパー耐久第3戦富士24時間レースの結果

総合優勝はST-Xカテゴリの「TKRI松永建設AMG GT3(23号車:DAISUKE/片岡龍也/奥本隼士/中山友貴/元嶋佑弥)」が飾った。

3台とも無事完走を果たしたTOYOTA GAZOO ROOKIE Racing、GR Team SPIRITのリザルトは以下の通り。

13位(523周回):TGRR GR86 Future FR concept(28号車)

32位(485周回):GR Yaris DAT Racing Concept(104号車)

41位(468周回):TGRR GR Corolla H2 concept(32号車)

今回の挑戦で水素カローラは、レース時間の短縮にもかかわらず468周回を重ね、昨年を上回る好成績を残した。

注目すべきは1スティントの周回数を前年の30から31周に伸ばし新記録を達成したこと。また、水素エンジンのクルマで初めて女性ドライバーが耐久レースを完走したことも併せて、新しい未来を予見させる内容だったといえる。

また、今年はスーパー耐久未来機構(STMO)となって初の24時間レース。桑山晴美副理事長によると、アマチュア層を育成するレースの「S耐チャレンジを11月に富士のサポートレースとして開催予定だという。
さらに、近い将来はレース初心者のための入門カテゴリである「FIRST S耐」も構想中だと語った。

今年も実現したS耐TVとのコラボ。STMO桑山副理事長と、今年からSTMOエグゼクティブドライビングアンバサダーに就任したロニー・クインタレッリさんが語る、S耐の今後についてはコチラ

純トヨタ車で、いざニュルブルクリンクへ

S耐富士24時間は終わっても「TOYOTA GAZOO ROOKIE Racing(TG-RR)」は休むまもなく、6月21日に開催される「ニュルブルクリンク24時間レース」への挑戦が待っている。

「ニュル24時間」と呼ばれるこのレースは、ドイツにあるニュルブルクリンクサーキットで行われる24時間耐久レース。

5.1kmのグランプリコースと、20.8kmのノルドシュライフェ(北コース)からなる約25kmの巨大サーキットは300mという高低差や、狭いブラインドコーナーが続く過酷さから“新車開発の聖地”とも呼ばれている。

豊田章男会長は、トヨタの評価ドライバーであり運転技術の師であった成瀬弘氏とともに、2007年のニュル24時間に初参戦している。「道がクルマを鍛える」「もっといいクルマづくり」を標榜することになった原点であり特別な場所だ。

S耐富士24時間のライブ配信に出演した脇阪寿一氏もまた、2010年にニュル24に参戦しており、開発中のレクサスLFAで完走した。

脇阪氏はニュルについて、「真夜中に時速300kmで真っ暗な坂を下っていくと、登り返す瞬間に強烈な縦Gがかかるだけでなく、ライトの当たらない路面が黒い壁のように出現するので怖い。どのドライバーも周回を終えピットに帰ると安堵から思わず“ただいま”と呟いてしまうほど」と、経験者目線の冷や汗エピソードの数々を披露してくれた。

脇阪氏による「ニュルブルクリンク」の怖い話はコチラ

2025年6月にニュル24時間を走るクルマは、発売前にコロナ禍の影響でニュル24時間には参加できず、S耐富士24時間への参戦で鍛え上げられたGRヤリス。トランスミッションに新開発のATシステムのDATを搭載したトヨタ純正量産スポーツカー「GR Yaris DAT」で、6年ぶりのニュルに挑むことになる。ニュルに向けて国内のテストでクルマを鍛える過程はコチラ

「S耐とニュルは違う」と語るモリゾウ選手だが、「道がクルマを鍛える」という意味ではつながっている。その先に何があるのか? 2025年6月21日〜22日、トヨタイムズスポーツではニュルブルクリンク24時間レースの生中継をおこなう。

スーパー耐久富士24時間2025 / ニュルブルクリンク24時間2025 特設サイト
https://toyotatimes.jp/24h_race_2025/

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