水素を身近に感じられるシーンが、さまざまな形で広がっている。水素社会実現へ、仲間たちの想いと取り組みを追った。
2025年9月、東京都は「水素の社会実装を進めるために『水素を使う』アクションを加速させる官民連携プロジェクト」を発表した。
その取り組みの第1弾として、FCEV(燃料電池車)のクラウンを使ったタクシーが都内を走り始めている。
車体が大きく、細い道では取り回しが難しいという面があるものの、静粛性や加速性能などは十分で、ドライバーも「カッコイイ」「こんないいクルマ初めて」。
取材時は、まだ3台しか都内を走っていなかったが、2025年度中には200台導入予定とのことなので、皆さんが利用できる機会も増えてくるはずだ。初乗り料金は、ほかのタクシーと変わらない500円(取材時)なのでご安心を。
今後は水素タクシーから得られるさまざまなデータを用いて、最適な水素の需給バランスも探っていく。水素バリューチェーン推進協議会の共同会長も務める佐藤恒治社長は「ものすごく大きな第一歩。大規模な社会実装の意義がある」と語った。
さて、場所を福島県に移して、こちらでも水素活用の取り組みが進んでいる。
ネッツトヨタ郡山は同年9月、全国に先駆けて水素を活用した販売店「安積(あさか)店」をオープンした。
店舗に設置されているのは、水素を燃料とする「定置型燃料電池発電機」。発電にはMIRAIと同じシステムを使い、水素タンクはFCトラックのものを転用するなど、クルマづくりで得た知見が生かされている。
また同店では、水素だけでなくペロブスカイト太陽電池を使った発電も取り入れている。軽量・薄型、曲げることができ、設置場所を柔軟に選べる同電池。店舗では青と黒の2種類を採用して発電効率を検証している。
都市で、地方で、タクシーで、販売店で。水素を使って、課題を見つけて、改善していくからこそ進む社会実装。モリゾウこと豊田章男会長はかつて、水素エンジンを搭載したカローラで初めてスーパー耐久24時間レースを完走した際、このように語っている。
「カーボンニュートラルで未来をつくるのは、意志ある情熱と行動だと思います」
「水素社会をつくっていく」――。仲間たちの意志ある情熱と行動の輪が広がっている。