
本業とは関係ないように見える取り組みを紹介する「なぜ、それ、トヨタ」。今回はフレグランス!...えっ香水!?
“悪臭側”からチームに入りました(笑)
夏場の閉め切った車内は気温が50度を超えることも。これが香りの難敵だった。
モビリティ材料技術部 中村桐子

50~100種の成分を混合して調香していますが、高温だと飛んでしまう香りもある。厳しい条件下でも、お客様に満足いただける香りを維持するための評価テストも繰り返しています。
中村は有機化学の専門家。快適な車内を目指して、クルマの“嫌なにおい”を消臭するプロだ。
「私は“悪臭側”からチームに入りました。クサイ原因を突き止めるのは得意」と笑いつつ、評価テストの現場も見せてくれた。

また、過酷な条件でもフレグランスが発火しないかなど、多くの部署が一体となって品質・安全の評価を繰り返している。
総括部署で働いていた加藤は、フレグランスに昔から興味があり、香りの評価をしているうちにチームの一員に。楽しそうなプロジェクトを「鼻がかぎつけた」と笑う。
車両技術開発部 加藤麻美

混合されている成分は、それぞれの沸点や吸着力が異なります。そのため、香り立ちの特徴も異なります。さらに紙やセラミックなど染み込ませる素材でもまったく香りの質が違う。車載用のバランスを整えるのが難しかったです。

97回の試作を経て、ついに日本らしい竹の香調を含んだ5つの香りが完成。今後はLEXUS ESだけでなく、他のLEXUS車への展開が期待されている。
においがない場所?若い女性は○○の香り?
あらゆる香りを何度も嗅ぐので、開発中は鼻のリセットも重要だ。一般的にはコーヒー豆の香りがリセットに効果的といわれるが、実は「腕をかぐ」など自分のにおいも効果的だという。
また“においがない”場所はないと言われるが、2つ特別な場所があるという。どこだと思いますか?

答えは、「宇宙」と「エベレストなどの高山の山頂」だ。
登山家は標高が高い場所で、においが恋しくなることもあるため、登山時に香りが強いものを持って行くこともあるそうだ。また、朝より夕方は鼻が弱るという話や、若い女性は桃の香りがするという嘘みたいな雑学も…!
香りを本気で追究しているメンバーだからこそ、多くの興味深い話が聞けた。ちなみに開発中に悩んだことは、試作車でまったく香りが出なかったことだという。
「香料を入れるカートリッジの樹脂に、バンブーの素材を使っているのですが、竹の消臭効果でにおいが吸収されていたんです」と笑い話のようなエピソードが。慌てて配合を再調整したそうだ。

現在、香りの体験を提供する自動車メーカーは増えているが、調香師と二人三脚でオリジナルを創り出すメーカーは世界でも稀だという。
スイスに本社を置く世界最大級の香料メーカー、ジボダン社の調香師ともゼロから一緒に開発。だが、百戦錬磨のプロでさえ車室空間にフォーカスした調香は初めて。未開の世界だからこそ何度も壁にぶちあたり、その度に新たな知見を増やしていった。

クルマの新たな価値をつくりだすチャレンジは、香りに留まらない。
嗅覚だけではなく他の感覚にも訴えかけ、自宅のリビングのようにくつろげる「Sensory Concierge(センサリーコンシェルジュ)」をLEXUS ESに初搭載。

イルミネーションや音楽、マルチメディア動画、空調。さらにシートのリフレッシュ機能やヒーターが連動することで乗員をリラックスさせたり、高揚させたりするという。
もはや移動ツールを超えて、家の外にある1つの部屋。今までの常識に捉われず、クルマはますます楽しいものになっていきそうだ。モビリティの未来にご期待いただきたい!