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「えっそんなことまで!?」裾野が広すぎる研究でウツボカズラのすごいことを発見した話

2025.11.06

本業とは関係ないように見える取り組みを紹介する「なぜ、それ、トヨタ」。今回はウツボカズラの研究!?

「トヨタがそんなことしていたの!?」と、昨年SNSで130万回以上も拡散された研究がある。内容はなんと、ウツボカズラの研究。

どういうこと?と疑問になって取材に向かうと、室内は葉っぱだらけ。

え、本当にどういうこと…!?

「裾野が広すぎる」と話題になった研究

我々が訪れたのは、トヨタグループの共同出資により設立された豊田中央研究所。

自動車関連の技術開発だけでなく、サステナブルな社会を目指し、省資源、省エネルギー、環境保全や安全性の向上など幅広い分野で基礎研究を行っている。

10年ほど前から自然に学ぶ活動も進めており、ウツボカズラの研究もその一環。冒頭の葉っぱだらけの部屋も、過去に取り上げた「Genki空間®」に関するものだ。ゲンキ…?何それ?という人のために、すごく面白いので後半で紹介する。

そもそも、なぜウツボカズラなのか話を聞いてみると…

豊田中央研究所 量子デバイス研究領域 主任研究員 町田悟

研究テーマを探していたある日「みんなで東山動植物園に行こう!」と誰かが言い出し、遠足のようにお出かけしたんです。

園の人に紹介されたのが、丸くふくらんだ袋を持つ食虫植物「ウツボカズラ」。それをお土産にもらったので研究室に持ち帰って、すぐにみんなで切り刻んだり、顕微鏡でのぞき込んだりしてみました。

いただいたお土産になんてことを…!(笑) しかしそれが驚きの研究成果につながったという。

ちなみにウツボカズラの名前の由来は、魚の“ウツボ”ではなく、矢を入れて背負う容器“靭(うつぼ)”だという。自然に学ぶ活動は、他にも「ヤモリの足はなぜ壁にくっつくのか?」「四足歩行の動物はどうやって走っているのか」など様々なテーマを研究。

研究員のなかには恐竜マニアもいて、最大の翼竜といわれる「ケツァルコアトルス」の骨格に注目したことも。生物の骨の研究に関連して、こんな椅子も生まれた。

頑丈さは維持しつつ軽量化に成功。クルマのシートへの応用も期待されている。

子どもの自由研究を、大人の研究者が全力でやってみるとすごいことが起こっていくのだ。内心「変なことをしている人たちだな」と思っていたが、恐るべし!

なんだ、この突起!

本題のウツボカズラに話を戻そう。くまなく調べていくと、あることが気になったという。

豊田中央研究所 主任研究員 町田悟

ウツボカズラは、襟部分にとまった虫が葉のなかに滑落していくのですが、この襟部分が非常に微細な構造になっていることに気づきました。

電子顕微鏡まで持ち出して襟の表面を本格的に調べると、突起があることが分かったんです。しかも全部が同じ方向を向いていた。

右のように拡大すると、突起は同じ方向を向いていた

絶対に理由があるはず!と思いましたね。植物学の研究者は「分類」に目がいくけど、我々のような工学者は「機能や構造」に目がいくんです。

さらに角度をずらして観察すると、襟は三次元的に浮いていて、その下に空洞があった。

(左)突起は、(中央)角度を変えると(右)下が空洞になっていた

分析チームが細かく調べると、下の写真の模型のように、ひさしのように鋭角に伸びていることがわかってきた。ここまでくると確実になにか機能をもっていることが予想される。

こうなると、あらゆる領域の研究者が「謎を解明したい」と集まってくる。表面科学の研究者は「ここにスポイトで水を流してみたい」と言い出した。その実験動画がこちら。

襟の内側から外側に水を流すと、すーっと流れる。しかし逆方向に流すと水がひっかかって流れづらい。つまりウツボカズラの襟は、一方向には水が流れやすいが、反対からは流れにくくなっていたのだ。

「突起のくぼみが水を受け止めるから」と思ってしまうが、実際はそれと真逆。くぼみを乗り越える方向に水が流れやすくなっていた。…なぜ!?

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