
中日スポーツ・東京中日スポーツWeb「トーチュウF1EXPRESS」とのコラボ企画がスタート。第1回はKYOJO開幕大会に挑んだ斎藤愛未選手を特集。

中日スポーツ・東京中日スポーツWeb内の「トーチュウF1EXPRESS」と、「トヨタイムズ」とのコラボレーション企画がスタートします。国内最高峰の「スーパーフォーミュラ」や、女性限定の「KYOJO CUP」など国内レースで印象的な活躍をした選手に焦点を当て、毎月最終週の木曜日に両メディアで紹介します。
第1回は、ディフェンディング女王としてKYOJO開幕大会(5月10-11日、富士スピードウェイ)に臨んだ斎藤愛未選手(ビッグボスWチーム・トムス)です。
開催9年目を迎えたKYOJOは車両がフォーミュラカーにステップアップされ、新たなスタートを切りました。事前に3度の合同テストを行って開かれた開幕大会では、下野璃央選手(Dr・DRY伊藤忠エネクス ウィーカーズ チームインパル)が全セッションを制覇する完全優勝を収めました。

一方、ゼッケン1を背負った斎藤選手は車両の不備や、予選レースでの不運も重なり決勝に当たる「ファイナル」に13番手で臨むという極めて難しい状況に追い込まれました。それでも前を走るクルマを着実に追い抜き、チェッカーを受ける瞬間までプッシュを続けて7位ゴール。昨年の女王としてのプライドを守りました。「冷静に走れたとは思います。周りの状況はよく見え、相手のミスに乗じて抜いていったのが、6台でした」と振り返りました。
ピットで見守った夫の坪井翔選手も「フォーミュラカーで6台も抜くのは簡単ではない。これ以上ない結果」と断言。昨季のスーパーフォーミュラとスーパーGTのGT500クラスを制したW王者から高い評価を受けますが、斎藤選手は「やり切ったという思いはありません。一番を目指している限り、悔しさの方が大きいです」。7位という結果には納得できなかったようです。
斎藤選手は参戦5年目だった昨季、年間4勝を挙げて初めて女王の座を射止めました。今季は車両がフォーミュラカーに代わって一からのスタートになりましたが、シーズンオフから「ゼッケン1を付ける限り、ふがいない走りはできない。そんなプレッシャーを感じていましたが、前向きに捉えることができました」と力に変えてきた。事前の合同テストでは3回ともトップ4前後のタイムを刻み、開幕大会に備えました。

ただ、結果的に準備は万端ではありませんでした。開幕大会を完全制覇した下野選手は、FIA-F4で4年目シーズンを迎えるなどフォーミュラカーの経験が豊富で、初挑戦の斎藤選手とはスタート地点が大きく異なっていました。
斎藤選手は「準備不足でしたね」とフォーミュラカーでの初陣を総括します。そして「(フォーミュラ未経験の)ハンディは思った以上に大きかった。実車でのテストは限られ、ドライブシミュレーター(疑似運転体験装置)もできなかったので…。走行量が足りず、自信を持って走れる状況ではありませんでした」と“敗因”を明かしました。
さらに計時予選では、水温の上昇でエンジンパワーが上がらず12番手止まり。予選レースではトップ10入りした直後に前走車の混乱を避けなければならず、一時は最後尾近くまで順位を落とす不運もありました。流れがどんどん悪い方向に向かっていき、精神的に追い込まれても不思議ではない状況でしたが、決して心は折れませんでした。
本人の強い精神力に加え、レース週末通じて寄り添った坪井選手の存在も大きかったようです。別のレースに出場していたこともあり、ずっと行動を共にすることはできず、直接的なアドバイスは限定的でしたが、大きな支えになりました。「言葉よりも、小さなことの積み重ねが大きいですね。(大苦戦した予選後の夜に)アイスを買ってきてくれたり、決勝日の朝に黙ってヘルメットのバイザーを張り替えてくれたり。2人ともレーサーだから、互いの気持ちがよく分かるんです」。2022年の10月に結婚した人生の伴侶によるひた向きなサポートがあったからこそ、力を出し切れたのでしょう。

悔しさの残る開幕大会に終わりましたが、シーズンは始まったばかり。まだ4大会も残っています。「最初のレースが終わり、良い意味でも、悪い意味でもドライバーの技量の差だったり、みんながどれだけ準備してきたのかも見えてきました」と斎藤選手。雪辱を期する第2大会(7月19-20日)に向け、準備に力が入ります。
5月31日から6月1日に富士スピードウェイで開かれるスーパー耐久第3戦「富士24時間レース」では、夫婦そろってST-QクラスのトヨタGR86に乗り込みます。斎藤選手は初めてのS耐になりますが、KYOJO開幕大会のモヤモヤを吹き飛ばす快走を思い描いていることでしょう。