
フェーズ1エリアが竣工し、いよいよ発明家や住民の受け入れ準備が整ってきた"実証実験の街"。今回は実証の土台をつくるエンジニアたちに想いを聞いた。

2025年2月、豊田章男会長も出席したフェーズ1の竣工式が行われ、街の輪郭が見え始めたウーブン・シティ(静岡県裾野市)。
フェーズ1エリアには、トヨタ内外から多くのインベンター(発明家)と、住民やビジターが集まり、実生活が営まれる環境下で実証実験を行い、社会課題の解決や価値創造につなげていく*。
*2025年秋以降のオフィシャルローンチ時点ではトヨタ及びウーブン・バイ・トヨタ(WbyT)などの関係者とその家族100名程度が入居予定。その後、社外のインベンターなどにも広げ、フェーズ1エリアでは最終的に約360名が暮らす予定。
そんな新しい製品やサービスが試されるテストコースの街で、インベンターが安心安全に実証実験しやすくなるよう力を尽くすチームがある。
実証の土台となる、さまざまなシステムを開発しているウーブン・バイ・トヨタ(WbyT)のエンジニアたちを取材した。
必要な人が必要な場所にアクセス
まずはこちらの動画を見てほしい。
オフィスなどで見かける入場ゲートだが、こちらはWbyTで開発中のもの。さまざまな実証実験が行われるウーブン・シティでは、安全の観点から事前に専用アプリで登録した人だけが、このゲートを通って入場できるようになっている。
オフィスにあるようなゲートと異なるのは、子どもや車いす利用者であっても顔認証システムが働きシームレスに入場できる点。ゲートに設置したカメラの高さやゲートの幅をメーカーと共同で調整。多様な人が生活することを想定した工夫が施されている。

もし読者の皆さまが、ビジターとして初めてウーブン・シティを訪れる場合は、同じく専用アプリで顔の画像や訪問予定日を登録するほか、この街での交通ルールなどを学ぶ必要がある。
こう聞くと面倒なようにも聞こえるが、これもどのようなモビリティが走り、実証が行われているのかを理解して安全に通行してもらうため。インベンターもビジターも、お互いに安心して過ごすために、必要な人が必要な場所にだけ行けることが重要なのだ。
この入場予約システムの開発を担当しているのが、B2(ビーツー)さんの愛称で呼ばれる、バラドゥ・バラクリシュナン(Bharath Balakrishnan)さん。
入場の条件設定には苦労したという。(本記事でもWbyTにならってB2さんと記載したい)
B2さん

ウーブン・シティでは、入場者によって入場できるエリアを決める必要がありました。
例えば、あるビジターはオフィスまでは入ることができても、(住民が生活する)部屋には入れないようにするなど、まずはルールをつくりました。
オフィスだと特定の人しか入ってきませんが、ウーブン・シティは「街」なので、さまざまな人が来ます。ビジターなのか住民なのか、または街の仕組みを支えるサポートスタッフやWbyTの従業員なのか、そういったタイプに分けて(入場条件を)定義しています。
当初、システム開発は外部のメーカーに依頼することも考えたという。だが、将来的にウーブン・シティで用いられるほかのシステムとの連携や、データ取得などを考慮してWbyTでシステムをゼロから内製で開発した。
ウーブン・シティでは、人やモノだけではなく、情報も移動するものと捉える。B2さんたち開発陣は、入場予約システムで登録した情報を使って、ウーブン・シティ内でのe-Paletteや施設の利用予約などへも拡張することを見据えている。
「最終的な夢は『この日のこの時間に、ウーブン・シティに行きたい!』という、ただ一つの情報だけで入場や施設、e-Paletteの予約をシステムが自動的にやってくれることです。それができれば、すごくスムーズにウーブン・シティに来ることができますし、ウーブン・シティとつながることができます」とB2さんは語ってくれた。
“信号待ち”からの解放?
さて、無事ゲートを通って街の中に入ると、このような光景を目にするかもしれない。
この動画、一見するとe-Paletteが来たタイミングで、偶然車道側の信号が赤から青に変わっているように見える。だが、実はそうではない。
ウーブン・シティ内でe-Paletteは、走行中常に位置情報と速度の情報を発信しており、これをWbyTがクラウド上に開発した「青信号要求サーバー」が受信。e-Paletteが送るこれらの情報から、信号機に近づくタイミングを計算し、青に切り替えるよう信号機にリクエストを送っているのだ。信号機の手前にあるセンサーに反応して切り替える、いわゆる車両感応式信号と違い、あらかじめリクエストを送信しているためe-Paletteは信号機の手前で停車する必要がない。

フェーズ1エリアでは、全7カ所にこのシステムを導入した信号機が設置されている。
ちなみに4月時点、ウーブン・シティ内の4交差点にある信号では、歩行者側は基本的にいつも青。赤に変わるのは車両が通行するときだけ。e-Paletteに乗車していても、歩行中であっても快適かつ安全に移動ができる。
豊田会長はかつて、ウーブン・シティをこのように語っている。
「ウーブン・シティはクルマの安全とともに、道、人を加えた三位一体で安全を確保するためのテストコース」
この取り組みは、いわば道から安全を確保するためのアプローチの一つ。テストコースの街だからこそ、一般的な街では難しい、交差点や信号を使った実証も繰り返し試すことができる。自動運転も、それに合わせた信号のシステムもウーブン・シティの道で鍛えられていく。
今後はインベンターとも意見を交わし、このシステムに即した交通ルールの設定・実証も進めていくという。
高橋優一さんは、このシステム開発に携わったメンバーの1人。ウーブン・シティに集う多くの人と交通事故死亡者ゼロに向けた未来をつくっていくことに期待を寄せる。
高橋さん

「自動運転車特有の最高の交通管制の仕組みをつくろうよ」みたいな人が来てくれるとすごく嬉しいですね。
「安全な交通で死亡者ゼロにしたいんだ」という想いの人が10人も20人も集まって、いろいろな国の人も来て、皆で手を動かして頭をひねるのはすごく楽しいだろうし、「そこに自分も入って働きたい」とわくわくしながら働いているメンバーもいると思います。