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勝負の世界の厳しさを知る 再び夢の舞台へ、平良響再起を誓う

2025.06.26

先月スタートした中日スポーツ・東京中日スポーツWeb「トーチュウF1EXPRESS」とのコラボ企画第2弾。激化するシート争い、若きドライバー平良響選手の覚悟と挑戦。

中日スポーツ・東京中日スポーツWeb内の「トーチュウF1EXPRESS」とのコラボレーション企画第2回は、シーズン中にスーパーフォーミュラのシートを失った平良響(25)をフォーカスする。

若手選手の育成目的に今季から新設されたチーム「KDDI TGMGP TGR-DC」の29号車シートをつかんだが、予選&決勝ともシーズン前半戦の結果が奮わず。7月の第6戦からは、リザーブドライバーの野中誠太(24)と入れ替わることになった。

育成を掲げる同チームは、開幕前からシーズン中にリザーブとの入れ替えという異例の対応を公表していた。平良は28号車に乗る同僚の小高一斗(26)と開幕5戦の成績を比較され、ともに入賞はなかったものの総合的な評価でシートを失った。「正直なところ『悔しいなぁ~』と思いますが、これが今の自分の実力。どうやって次のチャンスが来たときに生かせるか―に気持ちは切り替わっている」。6月上旬に富士スピードウェイで開かれた公式テストにはリザーブドライバーとして参加し、チームの一員としてミーティングなどにも積極的にかかわっていた。

チームスタッフの作業を見守る平良選手(左)

所属するTGMGP TGR-DCは、モリゾウのドライバーネームでモータースポーツ活動をする豊田章男会長の発案で誕生したチームだ。なかなか国内最高峰のシートを得られない育成選手に対し、戦う場を与えることが目的になっている。ただ、育成カテゴリーで育ててきた若手選手にチャンスを与えるのと同時に、勝負の世界の厳しさを体験する場でもある。

チームを指揮する片岡龍也監督は、トヨタ自動車の若手育成プログラム「TGR-DCレーシングスクール」の校長も務めるトヨタ育成の要。「育成チームなので、一人でも多くの選手にチャンスを与える目的で入れ替え制を導入した。スポーツなので途中で変えることに否定的な声も聞くが、プレッシャーがかかる中でどう戦うのかも良い経験になるはず。平良もクビなったわけではなく、リザーブとしてチームと行動を共にしており、返り咲くチャンスも十分にある。今回のことで成長してくれると信じている」と熱っぽく語る。

右が片岡監督

プロドライバーとしての厳しさを味わった平良も、なぜそうなったのかは十分に理解している。味わっている悔しさを今後の糧にするため、出場できないシーズン後半戦もレース会場を訪れ、チームの一員としてクルマのセッティング変更などの過程を間近で感じ取る覚悟だ。「チームと行動を共にして『何をしたら(クルマが)良くなったのか』『何をしたらダメだったのか』を頭の中に入れることで、次にチャンスが訪れたときに生かせると思う。(今年中は)なかなかチャンスは巡ってこないかもしれませんが、もしきたときにはしっかり結果を残したい」と前を向く。

今シーズンの初めには、自分でも信じられないほど精神的に追い詰められていたという。「メンタルは強いと思っていたのですが、全部が全部ネガティブに考えてしまって…。チーム内で普通に話していることも『自分がダメなんだ』みたいに考えてしまった」。並行して参戦するスーパーGTのGT300クラスでミスが続いたことがきっかけとなり、そこでコンビを組む同僚(堤優威)とのタイム差も広がり、自分自身で追い込んでしまったという。復活できたのは、レースで納得できる走りができたから。「レースの自信は、レースでしか取り返せないのを実感しました」と、ここでも貴重な一歩を記した。

レーシングカート時代は、本格的なサーキットが少ない沖縄県出身というハンディを背負っていた。「レースのたびに本州に来て、大きなコースで毎日練習している選手を相手に戦った。『絶対に負けたくない』という気持ちは今でもある」という。高校を卒業して名古屋市内で働きながら4輪のレース活動を始め「(トヨタ自動車の)育成プログラムに入ってからは、素晴らしい環境で走らせてもらっています。感謝しかない」と、TGR-DCレーシングスクールのサポートで、FIA-F4、スーパーフォーミュラライツ、そして今季のスーパーフォーミュラと駒を進めてきた。

今回は悔しいつまずきを経験したが、将来の目標はぶれていない。「可能性は無限大なので、F1やWEC(世界耐久選手権)に出てみたいと思っています。まずはスーパーフォーミュラとスーパーGTのGT500クラスのチャンピオンを取りたい」と夢を膨らませる。昨季は代役参戦ながらスーパーフォーミュラの第4戦で9位入賞を果たすなど、その速さと実力は誰も認めるもの。ここが正念場だ。

TGMGP TGR-DCでは、11月に鈴鹿サーキットで開かれる最終大会(第11&12戦)で再びラインアップを見直すという。平良にすれば〝裏方〟に回るこの5戦で、何を学び、どんなアピールをできるのかで状況は大きく変わる。片岡監督は「平良には『何が悪かったのか』を気づいてもらい、次に生かしてほしい。最後の2戦は再びラインアップを見直すが、新しい人が加わるかもしれない。シートを狙う若手は次から次へと出てくるもの。これが勝負の世界です」と締めくくった。

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