中日スポーツ・東京中日スポーツWeb「トーチュウF1EXPRESS」とのコラボ企画第5弾。サーキットとラリーの〝二刀流〟で奮闘を続ける平川真子選手を取り上げる。
女性限定フォーミュラ「KYOJO CUP」には「docomo business ROOKIE」から参戦し、第3大会を終えてランキング5位。参戦4年目を迎えた全日本ラリー選手権は、スカラシップ制度のある「MORIZO Challenge Cup(モリゾウチャレンジカップ)」に初挑戦し、第6戦を終えてランキング9位。両カテゴリーとも最大目標の「優勝」には手が届いていないものの、明確な目標に向けて確かな歩みを続けている。
「人生で一番充実した1年を過ごしています。まだ結果は出ていませんが、第1戦目から課題が明確になっていて、その克服に挑んでいます。うまくいかずつらいときもありますが、これを乗り越えた先には、しっかりしたドライビングのベースができていると信じています」
表情をさらに引き締める平川。課題は「大きく言えばクルマを曲げることです」という。路面コンディションなどの変化によって、競技車両の走行フィーリングは大きく変わるもの。その時々に合わせたドライビングの調整が求められるが、そう簡単にいくものでもない。とりわけクルマの調整箇所が限られるKYOJOのフォーミュラカーでは、ドライバーが負う部分が多いという。
スーパーフォーミュラ(SF)と併催のときは、高性能なSF車両タイヤのコンパウンド(ゴム)が路面にくっつきグリップ(接地)感が極端に高まるという。それはセッションが進む度に路面の感触が変わり、クルマが曲がりづらい傾向がどんどん強まっていく。平川はSFと併催だったKYOJO第2大会で苦しみ、予選12番手に沈み、スプリントで10位に浮上するも、ファイナルは12位。表彰台争いから一転、入賞がやっとの苦戦を経験し、繊細なフォーミュラカーの難しさを実感した。
「一歩ずつですが、前進していると思います。どこをどう改善すれば、コンスタントに速く走れるかは体感してきました。(克服まで)あと一歩の段階には来ていると思います」。2018年に開催2年目のKYOJOでランキング2位につけたが、サーキットレースを本格的にするのは久しぶり。他の選手のレベルも高くなり、いきなり勝てるとは思っていない。着実にステップを踏み、一つずつ課題をクリアしていくつもりだ。
この4~5年はラリーにドップリとはまっているという。「ドリフト競技に興味があって、やってみたいと思っていたら、ラリーをやっていた父から『おもしろいぞ』と誘われて」と気持ちが大きく傾いた。2022年に全日本ラリーにトヨタ86で参戦し、2023、24年はFFの同ヤリス、今年は四輪駆動のGRヤリスで参戦を続けている。「サーキットで学んだことがラリーで生かせるし、ラリーで学んだことをサーキットでも生かせる」と相乗効果を生んでいる。
ただ、最終的な目標は「WRC参戦」とはっきりとしている。「おととしのラリージャパンでサービスのお手伝いをして、目の前で(最高峰クラスの)ラリー1カーが走る姿を見て、心が奪われました。『かっこいい』『いつかは乗ってみたい』という気持ちが強くなりました」と目指す世界が定まった。
昨年はWRCプロモーターが女性ラリードライバーの育成を目的とし開催した「ビヨンド・ラリー女性ドライバー育成プログラム」の最終候補15人に選ばれ、ポーランドでキャンプに参加。育成プログラムを受けられる最後の3人には残れなかったが、「自分の課題を改めて認識することができた」と貴重な経験になったことを強調する。
TGRが進めるラリードライバー育成プログラムには年齢制限があって挑戦はかなわないが、モリゾウチャレンジカップに参戦することで、WRCを戦うTGRワールドラリーチームの講師から指導を受けられ、TGR育成出身のチームメート、大竹直生からもアドバイスをもらっているという。「(ラリー競技は)やっと土台ができつつある。来年はしっかりした土台からスタートを切り、勝負をできたらいいな」と来年を飛躍の年に定めた。
父親の晃さんはアマチュアレーサーながら、全日本GT選手権(現スーパーGT)に参戦経験を持つ実力派。2歳上の兄・亮はTGRの一員として世界耐久選手権(WEC)をシリーズ連覇(2022、23年)し、今年はハースF1チームのリザーブドライバーも兼務する日本のトップドライバー。そんな環境で育った真子も、普通自動車免許を取得してからレース活動を始めた遅咲きながら、世界を舞台に戦うことを夢に見る。
まだ志半ばの平川ながら、夢は果てなく広がる。「今年はラリーもKYOJOも一歩ずつ前進しているのを、自分の中で体感しています。本当に実りあるシーズンを過ごしている。(この先)チャンスがあれば、自分でつかみ取っていきたい。男女関係なく『速さ』があれば、見ている人は必ずいると思う」。WRCでは日本人女性初の最高峰クラスのシートを目指し、平川の〝二刀流〟挑戦は続く。