中日スポーツ・東京中日スポーツWeb「トーチュウF1 EXPRESS」とのコラボ企画第6弾。39歳になった、今年も国内外のトップカテゴリーで活躍する小林可夢偉にスポットライトを当てる。
中日スポーツ・東京中日スポーツWeb「F1 EXPRESS」とのコラボレーション企画第6弾は、39歳になった、今年も国内外のトップカテゴリーで活躍する小林可夢偉にスポットライトを当てる。
FIA世界耐久選手権(WEC)ではTOYOTA GAZOO Racingのチーム代表を務めながら、7号車のエースドライバーとして大奮闘。国内ではスーパーフォーミュラ(SF)に「Kids com Team KCMG」のメンバーとして、11年目のシーズンを迎えている。
不惑を目の前にした可夢偉だが、老け込む気配はみじんもない。精力的にチーム代表などの仕事をこなしながら、ドライバーとしても一線級の速さを見せつける。「なんで走っているのか?って、それは求められているから。自分自身も常に勉強し、もっと良くならないか―と考えている」と力みなく答えた。
もちろん肉体的なピークは越えている。「今ではだんだん挑戦になってきているかな。まだ大丈夫だけど、そのうち視力なども衰えてくると思う。どうやったら改善できるのか、どんなトレーニングしたらいいのかは考えている」。日々の努力に加え、常に探究心を忘れず、クルマと自身の改善に力を注いでいるようだ。
「それに僕はトヨタに育ててもらったドライバー。そこで得られた経験を使ってほしいと思っている。今ではトヨタのいろんなプロジェクトにかかわっているので、その力にもなりたい。それが僕なりの感謝の気持ちです」
トヨタの支援を受けて16歳で渡欧し、入門カテゴリーのフォーミュラ・ルノーで日本人初の2シリーズ王者を獲得。欧州F3やGP2(現F2)でも結果を残し、トヨタは撤退してしまったF1でも2012年の日本GPで日本人3人目の3位表彰台に上った。
WECではルマン24時間レース制覇にシリーズ王者。北米ツーリングカーの最高峰NASCARにも挑戦した。そんな数々の経験を積んでこられたのも、トヨタという存在があったからこそ。多忙にもかかわらず数々のプロジェクトにかかわり、レースの第一線で走り続けるのは感謝の思いでしかない。
ただ、可夢偉は驚くほど忙しい。取材対応をしたSF第9、10戦(10月11、12日)が行われた富士スピードウェイ(静岡県)には、WECの開発テストを行っていたフランスのポール・リカール・サーキットから直行してきたという。「夜間テストをやって、そのままレンタカーでフランスの空港に行って、ドイツ経由で公式練習の朝に帰国。そのままクルマで富士に入った」。走行開始のわずか数時間前に不眠不休で到着し、そのまま公式練習に臨むタフネスぶりを見せつけた。
可夢偉は「休息は大事だけど、時間を増やせばいいという考えには疑問が残る。メリハリのついた時間を過ごすとか、休むことはクオリティーの高さが重要じゃないかと思っている」と力説する。自宅でノンビリと過ごすことは性に合わず、わずかな時間を見つけては、自らを高めることにエネルギーを注いでいるという。
日々の睡眠は2~3時間でも十分という。「もちろん体調が悪くなりそうなときにはしっかり睡眠を取るけど、自分の自由な時間をいかに楽しめるか―でしょう。興味のあるモノを集中してやっていれば、自然と『疲れた』という感覚はなくなると思う。精神的なものじゃないかな」。耐久レースを戦うときでも「寝ないと集中できないと思った時点で負け」と考え、寝なくても大好きなレースのことを楽しく考えられるようなマインドにするようにした。
「人間の時間は限られている。その時間をいかに過ごすかによって、自分の可能性を広げられたり、学びを増やすことができると思う。人の倍生きられたら、いろんなことを残せると思う。投資などの分野でAI(人工知能)が脅威と言われているのは、寝ないからでしょ」。
限られている時間をどのように過ごすかによって、その人の生き様が決まるというのだ。ここまで人生のほぼすべてをレースにかかわることに費やしてきた可夢偉だが、この独特な生き方をこの先も続けるという。「SFは国内で勝てていないので、意地の部分もあるけど、若いドライバーのためにも(自分が現役を)長く続けたい。『(SFは)とても速いから年を取ったらダメ』というブラインドをつくりたくない」。今SFを戦う若い選手にとどまらず、これからステップアップしてくる選手の道しるべになるべく、少しでも長く走り続けるという。
「(周りから)求められなくなったら、しがみついたりはしない。でも、まだまだ戦えるのを示したい。長く(トップで)走り続けるのも夢があるでしょう」。そのスピードに陰りが見えるまで、〝おっさん〟可夢偉は走り続ける。