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垣根なき工場 "共創"と"共挑"で生き続ける未来へ

2026.02.20

足回り部品専門工場として常に競争にさらされてきた三好工場。メガサプライヤーに加え中国新興サプライヤーも成長を見せる中、仲間が同じ闘志を持ち続け、生き抜くための進化に迫る。

繰り返す“新人” 従業員の負荷軽減への努力

事業を外に移管し、工場のレイアウトを変えることはできても、人の心は簡単には変えられない。つくるもの、工法が変わるたびに活躍の場を失い、一から学び直さなければならない従業員。

その負荷を軽減しようと、三好工場は「ウーブン・バイ・トヨタ(WbyT)」と協業を始めている。

実証実験を行う場となっているのが、2022年に立ち上がったドライブシャフトのライン。「未来を見据えたラインづくり」というミッションを抱えていた、三好工場・工場支援室の元武裕介主任は、今回の協業について、このように語る。

工場支援室 元武主任

工場は「くさい・汚い・危険」といわれていて、実際、独特なにおいがあったり危なかったりします。勤務時間は朝早く、夜は遅い。現場で働く従業員はいろいろな我慢をしながら生活してくれています。

そこで、未来の工場を考えたときに、「工場で働くことで人生が豊かになる」イメージに変わっていくことを目標に、共通の想いで協業しています。

新ラインの立ち上げでは、現場から「設備の不具合集約に手間がかかる」という声があった。各設備の不具合は従来、作業員が目視で確認、内容を記憶し、手書きもしくは手入力で記録。これは工数がかかる上に、ミスの原因にもなる。不具合の分析についても、作業員が表やグラフを作成しなければならなかった。

今回のプロジェクトではライン上の設備の不具合を自動でサーバーに集約。作業員が手を加えずとも1画面にすべての不具合情報と分析結果が表示されるシステムを現場の声を聞きながら制作している。

WbyT 田邊怜さん

実証実験とはいっても、協力者との間でデータの開示範囲に制約があるのが一般的です。しかし三好工場の皆さんは、実証に必要なデータを提供してくださりました。

現場を実際に見ることは大事ですが、2時間だったら2時間分しか情報を得ることができません。データ提供のご協力があったことで、2カ月、3カ月とより多くの情報を得ることができます。これがあることで、エンジニアは新しいトライができます。

今、実証実験を1つのラインで行うだけでなく、他のラインにも広げていこうとしています。目指す先は、他の工場にも広げていく未来です。

WbyT イアン・キムさん

三好工場の皆さんは、未来が分からないからこそ、初めから固めすぎず、柔軟に変化させることを理解してくださる。「目的を明確にしてから」と構えすぎずに工場に足を運ぶことができ、積極的に情報収集や提案ができています。

大変親密な関係を築けており、胸が躍る協業だと感じています!

従業員の負荷軽減の取り組みは、詰所でも見られる。

打合せや休憩に利用する詰所の改善については、本連載の中でも何度か触れてきた。三好工場では、特に緑が目立つ。

これは現場の従業員に癒しを感じてもらえないかと、未来創生センターと豊田中央研究所が研究する「Genki空間 ®」の考えを取り入れたものだ。さまざまな環境で検証を行っているが、工場に取り入れるのは初の試み。

工場支援室 木村洋二室長

工場は無機質な機械が乱立しているので、緑化と一番縁遠い領域だと思います。しかし、トヨタ自動車を支えていただいている現場の皆さんにこそ、心の余力を生み出していただけるようにしたい。

いろいろな変化を生き抜いてきた三好工場だからこそ、こうした未知の取り組みにも挑戦していけると思いやらせていただくことになりました。

現在は、事務館のエントランスと工場建屋内中央にある休憩所の2カ所にバイオフィリックデザイン*を導入。

*自然とつながりを求める人間の本能を満たし健康や幸福度の向上させるために、空間に自然の要素を取り入れるデザイン手法

導入前は、白い壁に白い机で、無機質だったエントランス。導入後は工場内外、さまざまな人が出会い、コミュニケーションをとれる空間をイメージし、T字路のレイアウトや机、椅子の質感にもこだわっている

工場建屋内の休憩所では、疲れた心身を癒すことができるよう、木の香りが漂う空間を実現した。

休憩所で会議を行っていた従業員からは「心地よい緑や照明のおかげでリラックスして本音が言える空気感があります」「ここで怒られたら少し緩和される気がする(笑)」といった声が

豊田中央研究所 池内暁紀さん

これまでオフィス空間での研究を中心に進めてきたので、工場で働く皆さんがどのような感想を持ってくれるのかな?という期待と不安があります。

今まではリラックス、活力、集中など、気持ちの要素でアンケートに答えていただいていましたが「作業ミスが減るような気持ちになりますか?」「安全意識が高まりますか?」といった、工場ならではの視点も取り入れて、緑の効果を探っていきたいと思っています。

R-フロンティア部 伊藤正和リサーチリーダー

私たちのゴールは、社内のWell-beingにとどまらず、社会全体に幸せを還元することです。

その実現のためにも、まずは三好工場でしっかりと検証を重ね、効果や課題を丁寧に見極めることが重要だと考えています。現場で培った知見をもとにアップデートを重ねながら、幸せの輪を社会へと着実に広げていきたいと考えています。

WbyTとの協業や「Genki空間 ®」の導入といった、外からの声を積極的に取り入れ、共に挑戦しようとしていく三好工場。こうしたトヨタの工場初の試みができるのも、多くの事業移管を経験し、協力会社との共存の道を常に探ってきたからかもしれない。

そして現在も、変わろうとしている“工場の景色”がある。正門にそびえ立つ時計塔だ。

1983年、トヨタ車の国内生産累計4,000万台を記念して建設。土台には三好工場で生産していた同年式カローラのステアリングシステムが刻まれている

この時計塔は三好工場のシンボルとなっており、創設50周年を迎えた際につくられたモザイクアートにも描かれている。

創設50周年を迎えた際につくられたモザイクアート

ジェイテクト、三五、豊三工業、WbyT…。多様な仲間が集う三好工場だからこそ、仲間同士が理解し合い、心地よくつながれる、働きやすく楽しい工場にしたい。そんな想いをもったメンバーが集い、1983年から工場を見守ってきたこの時計塔を、これからの三好工場にふさわしい“つながりの象徴”として仲間とともに新たな姿へ生まれ変わらせる「壁画プロジェクト」を始動させた。

(左上)壁画プロジェクト発案メンバー。左から三好工場・明知工場製造技術部 早間 陽之、三好・明知工場第2DL製造部 渡瀬 裕也、三好工場・明知工場製造技術部 中西 悠太、壁画アーティスト ミヤザキケンスケさん

プロジェクトは、三好工場と一体経営をしている明知工場と一緒に進めている。仲間・家族・地域の方々と一体となり両工場の姿を絵で表現するという“プロセス”を大切にし、ともに歩む未来へつながる取り組みになることを目指している。

完成は2月の予定だ。

地域、協力会社とつながり、幸せを量産する

従業員、協力会社といった多様な仲間が生き生きと働ける魅力ある工場をつくる。そのために、工場をより開かれた場所にしようという試みも始まっている。

第1機械部第13機械課を経て、現在は未来創生グループに籍を置く橋本優GMは、つくるものが大きく変わり、先行きの不安感が漂う現場を目の当たりにしてきた。「三好工場をもっと元気にする、そんな起爆剤になるようなシンボリックなモノ(場)をつくりたい」と決意。

高橋一彰工場長とも相談し、新たな建屋を設けることとなった。

その名も「みんなのコモンスペース」。

未来創生グループ 橋本GM

全社方針の「未来工場プロジェクト」の中で「工場を開かれた場にしていこう」というコンセプトがあります。「みんなのコモンスペース」はこのコンセプトの実現に向け、先頭で走り出しています。

最初は「なぜ三好工場が一番に取り組むのか」という声もありました。

しかし、三好工場は数々の移管を経験しており、ジェイテクトさんや三五さんはじめ、数々の協力会社とさらなる連携強化が必要になっています。協力会社とのやり取りをもっと自由にやりやすく、会社間の壁を越えたワンチームにならなければいけない。そこでもっと協力会社が気兼ねなく自由に訪れ、連携をしながら一緒になって競争力向上に取り組める環境整備が必要だと感じていました。

だからこそ、三好工場で取り組む価値がある。

最終的には佐藤(恒治)社長も「ぜひ三好工場で従来のトヨタの殻を破ってほしい!」と背中を押してくださりました。

29年初に稼働予定の「みんなのコモンスペース」。“みんな”には、従業員や協力会社、地域の方々という“いろいろな人”、 “コモン”には、その時々にあった“いろいろな使い方”という意味が込められている。

共用デスクやミーティングスペースなどを設けたエリアでは、一部を除きセキュリティフリーに。協力会社だけでなく学生やスタートアップ企業などがともに作業し、コミュニケーションをとれる場を構想している。イベントホールやカフェを設けたエリアは、多様な仲間との出会いやコミュニケーションを生む場に。現在は行っていない土日開放イベントにも積極的に取り組む予定だ。

社員のモチベーション向上と協力会社との共存共栄意識の醸成。そして地域との連携強化。

「企業、組織の壁や、従業員と地域の方という枠組みを越えて、いろいろな人が交わって心が通じ合うような場にしていきたいです。その結果、将来のモノづくりに繋がり、モノづくりファンが増えてくれればうれしいです」と橋本GMは続けた。

「みんなのコモンスペース」のような三好工場と地域の結びつきに、行政も期待を寄せる。かつて三好工場の従業員でもあった田中祐二市議会議員は「小学生向けの工場見学やからくり体験、町の清掃などのさまざまな活動は、地域の方々からも、ぜひ続けてほしいという声をいただいています」と話す。田中議員は、自身が三好工場と地域のつなぎ役となることが、「お世話になった三好工場への恩返し」とも語った。

さまざまな活動を通じて町いちばんの工場を目指す三好工場。地域との結びつきの強さから、市の課題解決に協力依頼がかかることも。

その一例が工場からおよそ4kmの距離にある三好池で開催される花火大会。毎年約3万人が訪れるという、同市の一大イベントなのだが、一般客向けに運航しているシャトルバスが渋滞に巻き込まれてしまっていた。

この問題を解決するために活用されたのが、なんとTPS(トヨタ生産方式)⁈

目をつけたのはシャトルバスと各駐車場の位置関係と運行ルート。24年までは、シャトルバス発着場に対し、一般駐車場はすべて三好池南側に位置していた(下図「南一般駐車場①~③」)。各一般駐車場に向かうシャトルバスは渋滞が発生しやすい交差点を通る必要があった。

2024年(改善前)の駐車場とバス発着場の位置関係

この点を踏まえ、改善後は北側に一般駐車場を設置(下図「北一般駐車場」)。シャトルバス発着場も2カ所に分け渋滞エリアを避けたルートに変更することで、スムーズな運行を実現した。

2025年(改善後)の駐車場とバス発着場の位置関係

また、三好池堤防付近での歩行者の混雑については、観賞エリアと緊急通路に対し、歩行エリアを広めに確保する工夫を行った。

これらの改善は、まさに工場における「工程の流れ化」。25年の最終シャトルバスは21時27分に出発。24年比約1時間の短縮に成功した。

「TPSをクルマの渋滞改善に活用するのは初」と語るTPSグループの大森真悟GMは、今回の改善活動をこう振り返る。

工場支援室 TPSグループ 大森真悟GM

今回、約1時間短縮できたものの、まだまだ改善の余地はあると考えています。例えば、バスが発着場に戻ってくるのは早いのですが、結局乗り場が1つしかないので、複数のバスが待機している状態になっていたり。

改善に終わりはないと思っていますので、26年はさらに短縮できるようにしていきたいです。

柵をとっぱらいたい!

2025年4月から、各自が好きな場所で作業できるフリーロケーション制度を取り入れた三好工場。高橋工場長は、ある変化を感じていた。

工場長という立場になって、従業員との距離を感じることもあったそうだが、最近は若手が積極的に隣に座るようになったという。

高橋工場長が「俺って人気あんねんな~」と喜ぶ裏で、実はあるゲームが行われていた。その名も「三好明知フリーロケーションビンゴ」。「違うG(グループ)の人の隣に座る」「休みの予定を聞く」など、従業員間のコミュニケーションを促す内容が書かれているビンゴの真ん中は「高橋工場長の隣に座る」だった…。

変化が多く、従業員にさまざまな挑戦が求められる三好工場。だが、工場内に漂うのは悲壮感ではなく明るい空気だった。

高橋工場長

今、三好工場で大切にしたいのは“共創”と“共挑”です。ジェイテクトさん、三五さん、みよし市さん、いろいろな人たちが同じ想いで集まる場所にしたいんです。人口が減っている中で日本のモノづくりを残していくためには、自分たちだけで頑張るのではなく、地域を応援する、地域から応援される開かれた工場にならないといけないと思います。

私は工場長室ではなく、皆と同じフロアで仕事をしています。職位や部署に関わらず皆と自由にコミュニケーションを取りたいと思っているからです。「開かれた工場にしたい」と言っているのに、トップが変わらないと何も変わらないと思います。

フリーロケーションやビンゴを通して、メンバーも明るくなってきていると感じますし、来て楽しい、開かれた工場を目指していきたいです。

高橋工場長は最後に「こんなことを言ったら怒られるかもしれないけど、工場の周りの柵も取っ払いたい!」と笑顔を見せた。

記載内容は2025年8月時点のもの。

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