
小さなデバイスが、リハビリテーション医療の常識を変える!? 実際に医療現場で使われているという「ウェルゲイン」。その正体は...

いつ、誰が、病気になったりケガをするかは分からない。
しかし、医療が高度化した現代でも、リハビリテーションは担当者の経験値と手技による研ぎ澄まされた感覚に頼っている部分が多いという。
「早く元の生活に戻りたい」そんな人たちの希望となるデバイスがあると聞き、愛知県豊明市の藤田医科大学病院に向かうと、普段は聞くことができないリハビリテーション医療の裏側を教えてもらえた。

「驚くべきことですが、実施した内容は電子カルテに残しているものの、実は細かくデータで定量化されていない。これは大きな課題です」
藤田医科大学 七栗記念病院の病院長であり医学博士の大高洋平医師は「日本でリハビリテーションが『科』として認められたのは1996年。歴史が浅く進化の余地が大きい」と語る。

いかに、人間の動きを見える化=定量化できるか。
すでにゲームやエンタメの世界では、モーションキャプチャで人間の動きをデータ活用している。しかし高価なシステムであり、そもそも臨床の世界で使えるようなものでもない。
データに基づく正しいリハビリテーションの実現へ。そのために、藤田医科大学病院でも使われているのが「Welgain/ウェルゲイン」という小さなデバイスだ。
職人技に頼らないリハビリテーションへ
ウェルゲインは、センサーを体に装着するだけで、タブレットにて動きをチェックできる。複数台のカメラを用意する必要もなく、人の動きや関節の角度をリアルタイムで測定できる。
「どこでも、いつでも、簡単に」手間をかけずに活動を定量化できるのだ。
小さなセンサーのひとつひとつには、加速度センサー・角速度センサー・バッテリー・メモリ・通信機能などが埋め込まれているという。
藤田医科大学 医学博士 大高洋平医師
これまでのリハビリテーションは、経験豊富な療法士の職人技でおこなわれていました。でもそれが本当に正しいのかは分からない。
ウェルゲインで動きを客観的に捉えて構造化できれば、患者さんは従来よりも良いリハビリテーションを受けることができます。
計測したデータはタブレットに送られ、活動を細かく定量化できるのだ。

内容に合わせてセンサーを付ける場所を変更でき、動きが正しいかを、音でも教えてくれる。
「今までのリハビリテーションは何だったの」と思えるほどの進化だ。
ここで、読者のみなさんもイメージしていただきたい。「膝を40°に曲げてください」と言われて正しく曲げられますか?それを、何度も再現できますか?
ウェルゲインがあれば、40°に曲がったときに音で教えてくれる。さらに動画や3Dアバターで確認できるので、患者は正しい動作を繰り返し実践でき、療法士もよりよい方法を伝えられる。
元自衛隊員、体力に自信はあったが…
実際にリハビリテーションでウェルゲインを使った黒川昭広さん。人生が激変したのは2024年10月1日の深夜3時だった。

「トイレから寝室に戻ろうとした瞬間、立ちくらみがして、大声で息子を呼んだものの起き上がれず、うまく喋ることもできなくなって…」
脳卒中だった。
救急車で藤田医科大学病院に運ばれ、目覚めたときには自分の名前も思い出せない状態。
「ベッドに寝たきりでとにかく不安でした。元自衛隊なので体力には自信があったんですけど…」
入院から2週間後、ウェルゲインを使ったリハビリテーションがスタート。リハビリテーションは根性で頑張る世界だと思っていたそうだが、想像と違ったと語る。
「つい、ラクな歩き方をしてしまいますが、それだと腰を痛めてしまう。そんなとき、音で『ここがアカン』と教えてくれるので改善点が分かりやすかったです」

頑張りが可視化されることで、自主トレもはかどるそうだ。入院から2カ月でかなり歩けるようになり、今、家では杖なしで歩いているという。
「リハビリをサボらないように長女に監視されています(笑)。娘とドライブに行くことも増えました。運転中、娘はK-POPを歌っています。私はよくわからないんだけど(笑)」と、嬉しそうに教えてくれた。

簡単に使えないと、使われない
そんなウェルゲインを開発したのは、前回紹介した脳卒中患者向けのリハビリ支援ロボットの担当メンバーだ。
新事業企画部 ヘルスケア事業室 小林誠グループ長

リハビリ支援ロボットで培った考え方を生かして、幅広い練習に使えるように小さなデバイスを開発しました。大きい機器を置けない場所でも24時間、簡単に計測できます。
きっかけは、クリスマスプレゼントだったという。