【え!? 今までのリハビリってそうだったの...?】超小型センサーの正体に驚いた!

2025.06.04

小さなデバイスが、リハビリテーション医療の常識を変える!? 実際に医療現場で使われているという「ウェルゲイン」。その正体は...

藤田医科大学 大高医師

人間の動きというのは、見えているようで見えていない。「いい歩行バランスだ」と思っても、定量化できていないので分析が難しい。

12月のある日「クリスマスプレゼントです」とトヨタの小林さんがアイデアを教えてくれ「おもしろい!」と思ったんです。

2019年、藤田医科大学病院との共同開発がスタート。しかし3つの大きな課題があった。

① 装着が簡単で使いやすく、すぐにデータ測定できること
② どんな場所でも電波を安定的に飛ばせること
③ 信頼性が高いこと

藤田医科大学 大高医師

良いものをつくっても、簡単に使えないと忙しい臨床現場では使われない。大事なのはユーザビリティです。

充電ユニットから5つの小型センサーを取り出し、計測したい部位にバンドで装着!忙しい医療現場ではこの利便性が重要になる

さらに、データを“使える情報”に変換することも大切。あらゆる面で臨床での使いやすさにこだわりました。

技術的に難しかったのが、Bluetoothでの通信だ。大きな病院ではあらゆる無線が飛んでいて、普通の機器では5~10m離れると切れてしまう。

また人体は電波を吸収するので、患者と理学療法士など複数人の体が重なる動作では電波が切れやすい。それらの改善を繰り返したという。

新事業企画部 小林グループ長

ウェルゲインは、細かい動きだけでなく、歩く・立ち上がるなど人間のあらゆる動作を定量化できます。

リハビリテーションに限らず、悪い姿勢をしたときに音で伝えてくれるので、工場では腰を痛めない姿勢を保つサポートをすることで労働災害を防いだり、スポーツのフォーム改善や、ケガの予防など、さまざまなシーンで役立つ可能性があります。

練習や評価データの蓄積・統合・共有ができる「リハビリ支援システム」も共同研究したという。

藤田医科大学 大高医師

歩行練習を何分やったかなど、細かいデータは驚くべきことに通常リハビリでは残されないんです。

当病院では独自のコードで電子カルテに落としていましたが、より広く使えるようにシステムを調整してもらいました。

最終的に目指しているのは、精緻なデータを統合することだ。それにより過去から現在までの経緯が見え、チームでの共有も可能になる。

「科学的に分析すれば、何を何分やればどうなるのか。お薬でいうドーズレスポンスカーブ(用量と反応の曲線)が見えてきます」(大高医師)

新事業企画部 小林グループ長

良いシステムをつくることは、先生方の余力をつくること。我々は医療行為はできません。でも、医療スタッフや患者さんのために何ができるか。困っている人の助けになりたいと思っています。

「トヨタさんは根本からやらないと気が済まないようで(笑)。リハビリテーションを根本から考えてくれるので医師としてはラッキーです」と笑顔の大高医師。

小林と同僚の井上晴規は「病院で説明すると、え!こんなに簡単なの?これもできるの!?実演すると、おー!と驚いていただける」と笑顔で教えてくれた。

ここ、見えますかね?

精緻なデータを測定できるウェルゲイン。その開発にはある企業のサポートが不可欠だった。それが、液晶や電子機器、メディカルケアと幅広くモノづくりを進める創業55年の三重電子だ。

「本当に困ったときに頼れる会社が三重電子さんなんです」と小林は語る。

左から、三重電子の奥山昇さん、髙櫻修平さん、専務取締役 二本杉幸治さん、代表取締役社長 林雅哉さん、出口篤さん、トヨタ小林グループ長

だが、開発時はあらゆる課題が噴出。

最大の難関は、遠くまで安定的に電波を飛ばすため、基板上の大小さまざまな部品の高さを揃える必要があったことだ。

「ここ、見えますかね?」眼鏡をずらしながら三重電子の二本杉さんが説明してくれた。

丁寧に説明いただいたが、取材時、肉眼では見えなかった

部品の大小で、ハンダ付けに必要な温度は違う。そんな中、わずか30ミクロン、髪の毛2本ほどの高さを調整。通常、これほど精密さを求められることはないという。

「スマホよりも精密ですよ」と話す三重電子の髙櫻さん。大変な作業を乗り越えられたのには、ある理由があった。

「祖母が闘病をしていた時に、人の尊厳を守ることや、少しでも多くの豊かな時間をつくりたいと願っていました。そして、家族みんなでニコニコ談笑できるような時間や、子どもたちの未来にもつながる、その先の笑顔をつくるために、想いを込めたテクノロジーで寄り添いたいと考えていました。だから開発は楽しかったです」。

今回の取材では、全員笑顔が印象的だった。

リハビリテーション。
それは「名誉を取り戻し、再びその人らしく生きるための活動を育む」こと。
重い言葉だ。だからこそ、やりがいが大きいのだ。

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