
フェーズ1エリアが竣工し、いよいよ発明家や住民の受け入れ準備が整ってきた"実証実験の街"。今回は実証の土台をつくるエンジニアたちに想いを聞いた。
家電操作もエネルギーの賢い使い方も端末一つで
さて、先ほどは読者の皆さまがビジターだった場合を仮定したが、今度は住民だったらどうだろう。外出先から入場ゲートを通って信号を渡り、帰宅する。そんなシーンを想像してほしい。
住居エリアの集合住宅に到着したら、まずはゲートと同じく顔認証でエントランスをオープン。

自宅の前に到着すると、ここも顔認証で解錠。

部屋に入ったら、専用端末で照明やエアコンをスイッチオン。

上の組合せ写真に写るタブレットのような端末は、部屋の中の家電など多いところでは約100台を操作可能。専用アプリをインストールすることで、手元のスマートフォンでも操作できる。
こうした家電群をストレスなく操作できることも重要だが、繰り返すようにここは“実証実験の街”。WbyTでは、操作端末と端末につながるクラウドシステムを開発しており、住居内での使用電力量や、スイッチのオン/オフといった使われ方にいたるまで、さまざまなデータを取得する。
こうしたデータは、住民がエネルギーの賢い使い方を考える一助になるだけでなく、住民合意の上でインベンターにも共有され、新しい製品やサービスの開発にも生かされていく。

開発を任された飯田起弘さんと安田朱里さんは、電力の見える化によるエネルギーマネジメントも、このシステムの大きな柱と捉えている。

飯田さん
さまざまなデータを見える化することで、チームやWbyTの他の部門にも展開できます。先々の(機能の)拡張性という意味でも、他のインベンターに情報を提供して、新たに一緒にビジネスやプロダクトを開発していくことも考えられるのかなと思います。
別のチームになりますが、ウーブン・シティ全体でエネルギーがどう消費されているかも、まとめていこうとしています。街全体でエネルギーマネジメントに対するあり方を考えていくことができると思います。
安田さん
エネルギーマネジメントシステムのより良い形を考えたいと思っています。今は、家の中で住民がどんな電気の使い方をしているか、私たちのつくったシステムで把握できます。
例えば天気によって、「今日はこれだけ発電しているから、こういう使い方が良いですよ」と提案ができる機能があっても面白いかなと思っています。別のチームが開発する、街全体のエネルギーシステムと連携することで、街全体でベストな電気の使い方が提案できるとさらに良いと考えています。
もちろんすごく研究が必要ですし、たくさんのデータで仮説を立てないといけません。難しいとは思いますが、そういうことができるベースができてきているのかなと思います。
住宅だけにとどまらず、街全体のデータを管理しているため、全体でエネルギーマネジメントを考えていくことができるのも、ウーブン・シティならでは。オフィシャルローンチ以降、入居が始まれば、さらにたくさんのフィードバックが集まり、改善が進むだろう。
チームの多様性が推進力
WbyTでは、入場ゲートや信号機といったハード面こそ外部メーカーと共同開発しているものもあるが、先述したように入場予約や信号の切り替え、家電操作のシステムはゼロから、社内で開発することにこだわってきた。
それはインベンターにとって必要なデータを取得し、実証実験に求められる機能を後付けできるようにするため。各システムの担当者をまとめ、開発をリードしてきた伊藤雅之さんは、次のように語る。
伊藤さん

「(インベンターから)こういう実証をやりたいからぜひコラボしましょう」と言われたときに、内製化しているから「すぐ(システムを)つなげますよ、一緒にやりましょう」と言えるのがすごくいいと思っています。
いろいろ開発をしてきましたが、やはり外部に委託してしまうとブラックボックスみたいなところがあって、自分たちでコントロールできないところがありました。
今は良いバランスでコントロールできている感じがあります。
しかし開発はチームにとって前例のない挑戦だった。安全と実証実験環境を街の中でどのように両立させるか。正解か分からない中、安全性を常に担保した上で、「まずはやってみよう」の精神で試行錯誤を繰り返した。
こうした挑戦が何度もできる環境であることも、テストコースであるウーブン・シティの強み。そして開発の推進力の一つになったのがチームの多様性だ。
ここまで見てきたとおり、このチームのメンバーは世代や性別、国籍、これまでのキャリアなどバックグラウンドもバラバラ。トヨタグループからの出向者も、WbyTの社員もいる。
WbyTに入社した飯田さんは「文化的にもバラエティーがある人たちが集まると、いろいろなシステムの使い方をするから、アイディエーション(着想、アイデア出し)として面白かったなと思います」と語る。
トヨタから出向してきた伊藤さんや高橋さんは、トヨタの人間だけだと同じような発想になっていたかもしれないと振り返る。
一方でトラブルの解決にTPS(トヨタ生産方式)などを活用。「原因がわかりにくいようなトラブルは、トヨタの問題解決のやり方がうまくいきましたね」と笑顔で語ってくれた。

トヨタが得意なこと、トヨタ以外の視点があったから進んだこと。さまざまな背景を持つ人たちが集まって一緒に開発に汗を流す姿は、ウーブン・シティが掲げる街のあり方とも重なる。
今秋以降は、さらに多くの背景を持った人が集まることが予想されるが、メンバーは「楽しみですね」と口をそろえた。
ウーブン・シティは“実証実験の街”であり、“進化し続ける未完成の街”でもある。今回開発したシステムもまた、実証実験できる素地をつくっている真っ最中。インベンターたちの実証を支えつつ、システムそのものも進化を続けていく。