SDVの一丁目一番地を「安全・安心」と位置づけるトヨタ。悲しい交通事故をゼロにするため、開発中の技術を公開した。
今年5月、RAV4のワールドプレミアで、サイモン・ハンフリーズChief Branding Officer(CBO)はこんなエピソードを披露した。
ハンフリーズCBO
トヨタのSDV*(Software Defined Vehicle)への挑戦はRAV4から始まっていくのです。
*SDV:ソフトウェアの更新で機能をアップデートすることを前提に設計・開発されたクルマ。
皆さんがSDVと聞いて、真っ先に想像するのはエンタメのことでしょう。それは間違いなく大きな部分です。
しかし、アキオさん(豊田章男会長)が「SDVの目的は何か」と問われたとき、彼の答えは明確でした。「いちばんの目的は、悲しい交通事故をゼロにすること」だと答えたのです。
SDVというと、インターネットを通じて、音楽や動画、ゲームが楽しめるクルマというイメージを持っている人も少なくないだろう。
事実、そうした価値が注目され、SDVがシェアを伸ばしている市場もある。しかし、トヨタがその一丁目一番地として掲げたのは「安全・安心」。
トヨタ独自ともいえるアプローチだが、クルマがSDVになると、どのように「安全・安心」が実現されていくのか? トヨタらしいSDVとは何か?
その世界観を体感してもらうべく、10月20日、トヨタは開発中の知能化技術を報道陣に公開した。
インフラ協調技術と行動予測
モビリティ社会の究極の願い「交通事故ゼロ」。その実現に向け、トヨタはかねてから、安全な「クルマ」の開発だけでなく、ドライバーや歩行者などの「人」、信号や道路などの「交通環境(インフラ)」も含めた「三位一体」のアプローチが大切だと訴えてきた。
デジタルソフト開発センターの皿田明弘センター長は「(三位一体の取り組みの)柱になってくるのは、インフラとの協調技術と行動予測だ」と指摘する。
つまり、クルマだけでなく、インフラを通じて得られる情報も含めてAI(人工知能)で分析し、危険を予測、回避するという考え方である。
インフラ協調で先読みする
例えば、対向車がひっきりなしに来る交差点で、右折のタイミングをうかがっているシーンを思い浮かべてほしい。
クルマの切れ目を狙って急いで右折したところ、横断歩道を渡る歩行者がいてヒヤリ。そんな経験がある人も少なくないはずだ。
説明会では、こうした事態に対応するインフラと車両の協調事例が紹介された。
ドライバーが右折をうかがっていると、運転を自律的にサポートしてくれる「AIエージェント」が「対向車だけでなく、横断歩道にも注意しないとね」と指摘する。
これは、交差点に設置されたカメラがドライバーの死角にいる歩行者を認識して行う注意喚起だ。
心理的に余裕のあるタイミングで一言あれば、ドライバーは目視で歩行者を確認し、安全な速度で横断歩道を横切ることができる。
このほか、説明会では、道路脇の建物の陰からボールと子どもが急に飛び出してくる場面でクルマがどう反応するか体験できる試乗も行われた。
最新の自動ブレーキシステムがついたクルマでも、死角から急に現れるものに反応するのは難しい。そこで、信号機や対向車のカメラで死角を補う。
危険を察知すると、AIエージェントが余裕をもって「危ないかも」と注意喚起。それでも速度が高いと判断すると、ブレーキをかけて、子どもの飛び出しに備える。
クルマ単体では不可避と思えるケースも、三位一体の取り組みだから対応できる。そんな象徴的な事例だ。
このほか、高速道路の合流地点で管制システムを使い、スムーズな交通流を実現するデモも行われた。
例えば、走行車線に、左からクルマが合流してくるケース。右に車線変更をしようにも、すぐ後方から別のクルマが迫ってきている。
このような場面では、「管制システム」が、どの車両がどう動くべきかを瞬時に計算し、各車両に指示を出す。
合流地点に差し掛かる前にAIエージェントが「車間空けて。合流車、来るって」とドライバーに提案。道を譲ると、「譲ってくれてありがとう」と言ってくる。