
今回のトヨタイムズスポーツは特別企画。それぞれの立場で"球児たちの聖地を目指した"トヨタ従業員3人が「夏の甲子園」を通じて学んだことなどを語り合った。
無意味な3年間
森田
ただ結果として日本一になれなかった。
竹内
負けてすぐのときは「ベストを尽くしたよね」とか一切思わなくて、「何のための3年間だったんだろう」、「無意味な3年間だったな」っていうのが、終わった直後でした。
今ならあのプロセスは大事だったとようやく解釈できます。
当時は大学野球を目指して受験の準備をしていたんですけど、負けた後の1~2日は「3年間やって意味があったのかな」と思っていました。
森田
その経験はその後の人生にどんな影響を及ぼしています?
竹内
本気でやった経験があるというのは自信になりますね。高橋君がパラリンピックで「甲子園の舞台に立っているから」というのと近い感覚です。
あの3年間を過ごしているから、ちょっとのことでは何てことない。
森田
注いだ努力量と結果ということで、「私はこれぐらい努力するとこんな結果になる」というもの差しにはなったんですか?
竹内
そういう感覚はないですね。「努力に限りは無い」ってことは学んだことです。努力と準備。
ひたすら努力しますし、ギリギリまで準備と改善を尽くす。だから本番が終わる瞬間まで満足しないですね。
森田
確かに、一緒にトヨタイムズの仕事をするようになっても準備すごいです。
他のアスリートキャスターにも共通しています。三好(南穂)さんや竹中(七海)さんとかすごく準備してきます。「そんなにやってきたの」みたいな。

高橋
やっぱりアスリートだからですか?
竹内
準備不足で負けたっていうのが、めっちゃ嫌じゃない?
高橋
嫌ですね。
ウォームアップをちょっとミスってダメだったとか。試合前1週間の調整に毎日のルーティンがあるんですけど、それを何かしらで遮られてできなかったとか。一番嫌。
ライバルに負けるより嫌かもしれません。
竹内
やろうと思った準備を全部こなして、その上で結果が出た/出なかったは納得できる。
高橋
そうですね。
健常者の何倍も努力しろ
森田
高橋さんにとって、甲子園とはどんな場所ですか?
高橋
たくさんあるんですけど、自分の可能性をみんなに証明できた場所。自分が持っている潜在能力のようなものを証明できた。そういう場所だと思っています。
小さい頃から片腕で、健常者の中で闘ってきました。つらいことだったり、苦しいことだったり、差別されたことも何度もあったんですけど、自分を信じて片腕で頑張ってきて、目標だった夏の甲子園に出場した。
結果でみんなに可能性を証明したと思っています。
(境高校は)県立の高校で文武両道だったので、毎日練習するという学校ではなかったんですけど、そういったチームを変えたのは、自分で言うのも何ですが、自分だと思っています。
片腕しか使えない自分が、自主練だったり朝から晩まで練習している姿を見て、チームメイトも「負けられないと思った」と。自分の存在がチームを変えたと自負しています。

森田
可能性を証明してやろうという考え方に至ったというのはなぜ?
高橋
一つはやっぱり昔から「片腕しか使えない状態で野球なんかできない」という言葉がすごくあった。「何で野球しているの?」と言われることも何度もありました。
そういった人たちに見せつけたい、甲子園という舞台に立ってプレーしている自分を見せたいということ。
あとは父親の影響ですね。父親は小さい頃からずっと「健常者の何倍も努力しろ」という言葉をかけ続けてくれました。
本当に厳しい父親で、先ほどの竹内さんと同じように、自分は父親との時間があるからこそ、それ以上に厳しいことはないんじゃないかと思っています。
竹内
強烈な親子関係ですね。
森田
「健常者の何倍も努力しろ」という言葉を、高橋少年はどう受け止めたんですか?
高橋
最初は「10倍以上努力しろ」と言われたので、単純に「健常者が100回バットを振ったら、1,000回以上振らないといけないな」と思っちゃって。怒られたくないから、もうやるしかない。

森田
なぜお父さんはそう言ったと思いますか?
高橋
やっぱり社会に出ていくにあたって、どうしても障害があると不利になったり、差別されたり、つらい経験をすると考えたと思うんです。そういったときに自分から立ち向かっていける、乗り越えていける人間づくりですよね。
小さいころから右腕が使えないことを理由にしたら、めちゃくちゃ怒られたんですよ。
例えばスキーとか、登山も、右腕が使えないから危ない、行かないって言ったりしたんですけど、そういう時も「行ってこい」。
野球の練習中も、父親が少年野球チームの監督だったので、自分だけものすごい勢いでノックを打ってきた。
姉が2人いるんですけど、姉2人に怒っているのは見たことがないですね。ただものすごく当たりが強かった分、今は一番のファンでいてくれているし、一番応援してくれて、本当にありがたい存在です。