
今回のトヨタイムズスポーツは特別企画。それぞれの立場で"球児たちの聖地を目指した"トヨタ従業員3人が「夏の甲子園」を通じて学んだことなどを語り合った。
アスリートもアナウンサーも思考回路は一緒?
森田
お父さんがそう言って、自分の可能性を証明したいというマインドになって、実際にこの場所に立って、すごいじゃないですか。
高橋
自分でもすごいと思いますが、周りの選手たちが頑張ってくれたというのもあるんです。ただその選手たちに火をつけたのは自分。よくやったなと思います。
森田
それでも試合終了の瞬間を迎えたときは「もっとやれたな」ってなったんですね。
満足しそうじゃないですか。「よくやったな」、「ここで終わったけど、よく頑張ったよ。甲子園にも来たし」って。そうは思わなかった?
高橋
思わなかったです。
久しぶりに甲子園に来て思ったんです。「やっぱり打席に立ちたかったな」って。打てる/打てないは別にしても、大歓声を浴びて打席に立ちたかったなって思ったんですけど、その悔しさは、パリで果たせたかなとも思っています。
森田
もし当時打席に立てていたら、そんな悔しさもなく、「よくやったな」ってなっていたかもしれない?
高橋
それは…。
竹内
思ってない。絶対なってない。
(バッターボックスに立ったとしても)打てなかったら…。
森田
「何で打てなかったんだ」ってなる?
竹内
ヒットを打っていたとしても、長打じゃなかったら…。
森田
「なんでホームランを打てなかったんだ」と? そういうものですかアスリートは?
竹内
たぶん甲子園で優勝している人たち以外は、みんな悔しさを抱えて終わるんじゃないかな。
優勝しても悔しさを抱えて終わる人はいるんじゃないかと思います。
トヨタには夏の甲子園で優勝している人もいるじゃないですか。福井章吾(大阪桐蔭)とか宮﨑仁斗(同)、春だけど熊田任洋(愛知・東邦)とか。たぶん彼らぐらいが満足する資格がある。
高橋
満足した時点で成長は止まっちゃうと思っています。陸上をしていても、やり投で言うとフォームだったり、いろいろ小さいことを変えていかないと(いけない)。
今は戦っている相手が海外のライバルで、やれることは全てやらないと勝てない。やっぱり満足はしないと思います、一生。
森田
そういう意味だと、「満足しないことを教えてくれた場所」でもあるんですね。
竹内
森田さんが、仮に夏の甲子園の実況をしていたら満足したんですか?
森田
1回喋ったとしても、「もっとしびれる試合で実況したい」とか、松坂大輔さんの春夏連覇*の瞬間を喋りたいなと思ってくるんでしょうね。
*1998年、松坂投手を擁する横浜高校が、当時史上5校目となる春と夏の甲子園を制した。
竹内
一緒じゃないですか。
高橋
一緒です。
竹内
きっと「決勝を喋って満足ですか?」と聞かれたら「いやもっといい試合で」となる。
森田
「もっといい言葉をなぜ出せなかったのか」って…。
竹内
だからきっと思考回路は一緒なんですよ。
森田
確かに、後でインタビューを見返して「何でもうひと押ししなかったんだ」「なぜあそこで止まっちゃったのか」「違う聞き方をした方が良かったな」というのは毎回思います。
竹内
実況なのか、野球、やり投という競技なのかっていう違いだけで、頭の中は一緒じゃないですか。
高校野球をいつでもどこでも
森田
やっぱりこれだけの人が熱くなる、スペシャルな場所だからこそ、ここに関わったことで得られた経験が、その先の人生に大きな影響を与えて、いろいろな人の人生にも影響を与えているんじゃないかなと。
私も久しぶりに甲子園に来ることになりましたが、2人が出場していたころや僕が見始めたときはスマホはなく、高校野球はテレビで見るしかなかった。ですが今は「バーチャル高校野球」というインターネットでのライブ配信があって、気軽にスマホで見られる。(この環境)高橋さんどうですか?
高橋
試合や合宿、練習で、なかなか(高校野球の)全試合を見ることは難しいんです。ですがけど「バーチャル高校野球」ならライブ配信だけじゃなくて、見逃し配信だったり、5分ぐらいのダイジェストで地方大会や注目の試合も見ることができるので助かっています。
僕と同じ障害を持ちながら出場している選手がいる今大会。もちろん彼のプレーも欠かさず全打席見ています。

森田
甲子園という場が生んでくれた、この対談。いろいろな話が聞けて、私は楽しかったです。高橋さんいかがでした?
高橋
本当に楽しかったです。森田さんは同期入社ですが、こういった入社の経緯とか、昔の話とか聞いたことがなかったので、昔の森田さんを知ることもできました。
竹内さんの高校時代の話もなかなか聞けないので、聞けて良かったです。
竹内
「現役時代を振り返ってください」と言われるケースでは、トヨタでやっていたときを振り返るとか、助監督をやったこともあって、慶應大学でのプレーを振り返るということは何回かあります。
ですが高校野球を振り返るっていうのは、これまでほぼなかった。そういった意味では、自分を振り返る貴重な機会だったなと思います。
全く毛色の違う2人と会話することによって、そんな世界もあるんだっていう気づきがあったのも良かった。
森田
私も元高校球児の話が聞けて、いち取材として楽しかったです。
残すは準決勝と決勝。「バーチャル高校野球」で見届けましょう!
森田・竹内・高橋
ありがとうございました!
【対談者プロフィ―ル】
竹内大助
1990年愛知県生まれ。中京大中京高時代に左投手として春の選抜に出場。慶應義塾大学野球部を経て、2013年トヨタ自動車入社。2016年都市対抗野球で社会人野球日本一を経験。引退後は慶應義塾大学野球部の助監督を3年間務める。現在はトヨタ・コニック・プロに出向してトヨタイムズスポーツの制作に携わっている。
高橋峻也
1998年鳥取県生まれ。パラ陸上やり投げの現役アスリート。パリ2024パラリンピック6位入賞。3歳のときの病気の影響で右腕に障害が残る。小学生のときに父の勧めで野球を始め、左手にグラブをつけて捕球、素早くグラブを右手に持ち変えて左手で送球する「グラブスイッチ」をマスター。2016年境高時代に夏の甲子園に出場し、大学からやり投げに転向。2021年にトヨタ自動車に入社後、2022年には61m24(F46)の日本記録を樹立。
森田京之介
1986年愛知県生まれ。トヨタイムズスポーツキャスター。2006年の甲子園観戦をきっかけにアナウンサーを志し、2010年テレビ東京にアナウンサーとして入社。スポーツ実況やNY駐在を経て、2021年にトヨタ自動車に転職。広報部に所属しながら、トヨタイムズのキャスターとしてスポーツを中心に取材を行う。