トヨタにとって国内初のBEV専用ラインを構える高岡工場。誰もが、どこでも、いきいき働ける工場に飛躍するため、各現場が取り組む挑戦とは。
2025年8月、トヨタに国内初のバッテリーEV(BEV)専用ラインが生まれた。
操業開始以来、カローラやプリウス、RAV4、ハリアーなど多くの人に愛されてきたクルマを生産してきた“大衆車工場”である高岡工場。
2つの製造ラインのうち、第1ラインがBEV専用に切り替わり*、これまで生産していたカローラは堤工場、トヨタ自動車東日本へ移管。
*RAV4やハリアーなどを生産する第2ラインは継続。
目下の生産車種は、10月に新型が発表されたばかりのbZ4Xとなるが、今後BEVの拡大に伴って対応車種も多様化していく見込みだという。
トヨタの電動化を支える重要拠点となった高岡工場だが、生産車種だけではなく、工場での働き方も大きく変えようとしている。
年齢や性別、国籍や障害の有無などにとらわれず、文字通り“誰もがいきいき働く”ことをテーマに掲げる現場を取材した。
デジタル化とは、働き方を変えること
BEV専用ラインとともに新設された「電池ファクトリー」。
「電池パック」をつくる拠点だが、機密情報が多いため通常内部は非公開。今回は特別に、施設内のモニタールームを案内してもらった。
部屋に設置された大画面のモニターには、ファクトリー内の設備を動かすための電力や圧縮エアーの消費量、作業員の残業時間などの情報を集約して表示。
現場まで出向いていた稼働確認の作業を、オンラインでできるように改善した。
必要な情報をいつでもどこでも入手可能になり、点検に要する時間が大幅に減ったという。また、異常検知もリアルタイムで把握できるようになっている。
こうしたデジタル化を進めるチームには、ITの専門知識をもつメンバーに加え、車体、塗装、組立などの工程で設備の維持管理を担っていた者も多い。
チームの一員である電池ファクトリーグループの菱沼主任は、デジタル化のゴールは働き方の変革と話す。
車体部 電池ファクトリーグループ 菱沼主任
単に設備が新しくなり、データを可視化できればDX化ではなく、働き方が変わって初めてDXを推進できたと言えます。
この電池ファクトリーで最も実現したかったことは、情報の即時共有、IoT (Internet of Things) 化です。必要な情報を、必要なときに取得できれば、多くの人の仕事のやり方を変えられる。
例として、電池パックケースの電着と呼ばれる工程では、乾燥炉に入れ150~190度ほどの温度で乾かします。その設備の周辺での稼働確認は高温下での作業になってしまう。
それもデジタルで可視化することで、そもそも乾燥炉近くに行かなくて済むようになります。働き方が変わることで体への負担を減らし、生まれた余力を業務改善などに割り当てられるようにする。
同時に、電着工程に300個超のセンサーを設置。リアルタイムで情報を取得しています。このビッグデータをAIで分析することで、設備管理の最適化・品質向上・改善につなげられる。
今までは想像できなかった未来の働き方を思い浮かべ、ワクワクしながらDX化を推進しています。そのためにも、現場を熟知しているメンバーと協力できるのは心強いです。
言語の壁を取り払い、安全な現場をつくる
デジタル活用による働き方の改善は、第2ラインでも進められている。
ボデーの溶接を担う車体部 第2ボデー課には現在、海外出身の社員が多く働いている。話す言語も、英語や中国語、ヒンディー語やミャンマー語など、8カ国語以上にわたるという。
各組の組長は作業開始前、作業者を集め、注意事項を共有するミーティングを行うが、ここに言語の壁が立ちはだかっていた。
海外出身の社員の中には、日本語による説明を理解できない人も多く、組長がスマホの翻訳機能(もしくは翻訳アプリ)を使って、個別に説明し直す必要があった。
これにより、情報伝達の工数が増加。ケガ防止といった重要な注意が行きわたっているのか不安も感じていた。
そこで各現場に翻訳ソフトを導入し、大型モニターで表示。組長らの話す内容を同時翻訳し、その場にいる全員に等しく情報伝達できるように。
ソフト導入を進めた同課の秋本すずかは、特に重視したことがあるという。
第2ボデー課 秋本
最新の翻訳ソフトを現場に取り入れるだけでは、ツールの導入のみで完結してしまい、本当の課題解決になりません。大切なのは、現場のニーズに寄り添ったうえで、過不足なく必要なものを渡すこと。
第2ボデー課のラインの一番の困りごとは、複数の言語が混在していることだと捉えました。
なので、組長が一度話せば3カ国語以上での同時翻訳ができるよう、ソフトをカスタマイズしたうえで導入。これにより、言語ごとに都度翻訳し直す必要と工数が大幅に減りました。
実際にコミュニケーションに苦労していた白崎洋之シニアエキスパート(SX)は、ソフトのおかげで現場運営がしやすくなったと語る。
第2ボデー課 白崎SX
今まではスマホで翻訳しながら話していましたが、その作業がなくなり大変助かっています。
近年では、夏場の熱中症対策もきちんと伝える必要がありますし、言語や出身を問わず、現場の誰もが安心して働けるようにしていきたいですね。