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工場を"誰もが働きたい職場"へ 人と技能が紡ぐ高岡工場の進化

2025.11.19

トヨタにとって国内初のBEV専用ラインを構える高岡工場。誰もが、どこでも、いきいき働ける工場に飛躍するため、各現場が取り組む挑戦とは。

人の技能があってこそ、工場は変わる

溶接や塗装、組立など、高岡工場の各部には「専門技能研修所」という、手作業による技能を磨く道場のような場所がある。

山沢祐一SXと大塚慶英SXは、ここで“先生役”を務める。ともに1980年に入社し、以降は塗装一筋。機械塗装も、手作業による塗装も経験してきた。

デジタルツールやロボットの導入が進む高岡工場で、人の技能はどうあるべきかを2人に聞いてみたところ、このような答えが返ってきた。

「ロボットの導入が進み、手作業の技能は教えなくてもよいのでは?と思われがちですが、それは大きな間違いです。ロボットに技を移植するには、より高い知識・技能を持った匠がいることが前提になります」(山沢SX)
「どんなにロボットが発達しても人の手による作業は必要とされる。なので、五感を伴う技能を伝承する“ヒトづくり”には責務を感じています」(大塚SX)

山沢SX(左)と大塚SX。

そんな高岡工場に宿る技能の伝承が、一つの形となったプロジェクトが2019年に行われている。

可能な限り機械に頼らず、人の手だけを使って生み出された世界に一台だけの「RAV4リムジン」。プレスから溶接、塗装や組み立てなどの現場から約200名のベテラン・若手有志が集まり、約半年かけて完成した。

「モノづくりは人づくり」の象徴として高岡工場内に展示されている。

通常のRAV4から全長を80cm伸ばし、快適な室内空間を実現。ボンネットにはモリゾウのサインも。
プロジェクトに参加したメンバーたち

製造現場を起点にした価値創出

高岡工場で磨かれてきた技能は現在、クルマづくりに新たな風を吹き込もうとしている。

塗装成形部では技能を応用して、グラデーションや大理石模様などの塗装を考案。これらは既存のクルマには採用されていない意匠で、生産現場から新車企画やデザインに発案していく道を模索している。

塗装成形部が考案した意匠

「自分たちが培った技能を生かせば、こんな色を実現できる、こんな商品も生み出せる。現場を起点に新しい価値を創出する“コトづくり”も我々の挑戦の一つです」と同部の古町大樹主任(写真左)と菅野勇樹主幹は口をそろえた。

高岡工場では工程で発生したクルマの端材を、カードケースといった別の製品に加工する“アップサイクル”にも挑戦中。ここにもクルマづくりを通じて磨かれた技が生かされているそうだ。

日本のモノづくりのど真ん中

最後に森田光宏工場長にこれからの高岡工場について話を聞くと、佐藤恒治社長が訪問した際のエピソードを交えて、このように話った。

森田工場長

今、高岡工場は“人中心”をテーマとした工場の景色を変える取り組みを進めています。重いものを運ぶ作業、熱い場所で働く作業などを全てなくし、“誰もがいきいき働く”工場づくりを加速させています。

佐藤社長にもそう説明すると「じゃあ、そこで働いていた人たちはどうなるの?」といただきました。

リフトや牽引車でモノを運んでいた人などは、物流の知識や技能が培われています。それを活かし、デジタルやロボットを活用した効率的な物流システムを設計する役割に回ってもらうなど、より高次な仕事に挑戦してもらいます。

技能を磨き上げた人が、時代に合わせた新しい知識を得ることで、次世代の技術や働き方を実現していく。それが進めば、また異なる形で技能を必要とする仕事が生まれ、研鑽を重ねることで進化につながっていく。

なので、機械が入るから技能がなくなるという心配は、全く必要ないと思っています。

こんな話をした際、「それこそが、日本のモノづくりのど真ん中だよね」と、佐藤社長は言われたんですよ。

機械や技術と共存しながら、人が得意なことを生かした仕事をどんどんやれるようにする。技能、そして働く人たちをど真ん中に据えた改革の先にこそ進化があると信じ、皆で一生懸命取り組んでいきます。

カローラから始まり、“大衆に愛されるクルマ”をつくり続けてきた歴史をもつ高岡工場。先人たちが培ってきた技能とともに、今度は“BEVの大衆化”を支える工場に進化しようとしている。

変わらない技能への想いと、時代とともに変わる生産車種。未来にわたってモノづくりの精神を失わないため、誰もがいきいき働くことのできる環境をつくっていく。高岡工場の現場からは、そんな前向きな覚悟が見えた。

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