3つの衝撃のモビリティの正体とは!? 記事後半ではトヨタが漢字で「障害」と表記する理由も!
「障害」と表記する想い
まずはこの図を見ていただきたい。障害はその人の問題ではなく、周囲の環境など社会側にあるという「障害の社会モデル」の考え方だ。
たとえば車いすで移動中、階段しかない場面に出くわす。それまではバリアを感じずに移動できていたのに、周囲の環境によって障害が発生してしまう。
この場合、エレベーターを設置すれば障害はなくなる。
「障害はその人の問題」という視点だと、リハビリなどで本人が解決するしかなく、解決できない問題も多い。多様性が重視される時代にそぐわないともいえる。
だが「障害は、環境など社会の仕組みが合わさって発生している」という視点だと、世の中の障害をみんなでなくしていける。インクルーシブな世の中へ大きな可能性が生まれるのだ。
トヨタでは、これまで「障がい」という表記も使われていた。それは、その人に害はないという考えに基づいている。
その考えは決して変わるものではない。だが個人の尊重がより重視される時代、社会に存在するさまざまな“壁”こそが障害になっていることを、みんなで意識的に理解するためにも「害」と漢字表記にするのだ。
いちばんの目的は「表記変更」ではなく「意識変革」。
誰もが成長を実感し、働きがいを持って人生を豊かにする「全員活躍」を目指すトヨタ。だからこそ、言葉を見直すことで、意識を変え、行動を変え、そして社会を変えていく大事な一歩にしようとしたのだ。
当事者たちはどう感じているか
とはいえ、当事者たちはどう感じているのか。トヨタに加え、 障害のある人の雇用の輪を広げる特例子会社のトヨタループスで働く人たちに集まってもらい本音を聞いてみた。
考え方は人それぞれなので意見は二分するかと思われた。しかし、語られた本音はほぼ同じような内容だった。当事者たちも「想いは同じだったんだ!」と驚きの声を上げる結果に。
- 表記はどちらでもいい。特に気にしていない
- 当事者を置き去りにして、周囲の人たちが表記の議論をしていると感じる
- 漢字にすることで「障害」について考えるキッカケになれば嬉しい
- 大事なのは表記よりも、みんなが話し合って実際にバリアがなくなること
- 会社などで障害について考える教育こそが大事
それぞれの声を紹介していく。
①「障がい」と「障害」の表記についてどう感じるか
トヨタ自動車 植田
表記はどちらでもいい。それよりも、この論争をしている人たちに「当事者はどれくらい含まれているのだろう」と思ったんです。当事者の気持ちを置き去りにされている気がして…。でも表記変更によって「障害」について考える機会が生まれるのはいいことだと思います。
トヨタ自動車 大野
私もどちらでもいいと思いました。それよりもSNSの表記論争を見て「怖いな」と思ったんです。正解はないのに、どちらかが悪者扱いされる。バッシングを受けた人は障害について考えることを恐れてしまうと思ったんです。
当事者からすれば、表記よりも、住みやすい環境や制度をみんなで話し合うことが大事。
子どものころ「障害者!」と、ふざけて言い合っている人を見て、自分に向けられた言葉ではなくても、悲しくて泣いたことがありました。なにが「害」なのか、情報を届ける機会が増えればいいなと期待しています。
トヨタ自動車 瀧口
私は表記を意識したことがない。身体障害者手帳の「害」の字を見慣れているからですかね。でも社会に害があって、個人に否はないというなら「障害者」にしてしまうと個人に紐づく気もします。大事なのは表記よりも、実際にある壁をなくしていくことかなと思いました。
トヨタ自動車 佐藤
僕もどっちでもいいです。海外で、障害のある人のことをDisabledと書いてあっても違和感がなかったので。当たり障りのない平仮名にして「配慮してますよ」というポーズを示すよりも、実際にしっかり配慮していくことが大事だと思います。
ちなみに英語では「健常者」という言葉はないそうだ。
トヨタループス 西水流
僕は、障害者の「害」に悪いイメージがありました。自分が“障害者”になったとき、まわりから白い目で見られたので、自分に害があると思ってしまったんです。
でも、トヨタループスに入社して「害」ではなく「壁」だと考えるようになり、表記はどちらでもいいと思うようになりました。漢字にするならば、どうして漢字にするのかしっかり説明されるといいですね。
トヨタループス 早川
多くの企業が平仮名にしているので、漢字にすると聞いて、世間と逆のことをするんだと思いました。でも、理解を深めるためなら漢字にしてもいいのかなと感じます。
トヨタループス 森川
自分が障害者になっときに「害」の意味を考えたことがあって。行きついた結論は「できないことや苦手なことがある」ということ。でもそれって健常者も同じ。
障害者手帳には思いっきり「害」の字が使われているんです。社会サービスを受けるときにはこれを出すんですが、心の中でみなさんにもできないことありますよね?と問いかけながら出しています。
すると、ふっと表情が和らぐ人がいたり、なんとも言えないような顔をする人もいる。そこを観察するようにしています。なので、僕は漢字でいいと思っています。自分から世の中に問いかけることができるので。
トヨタループス 外輪
表記はどちらでもいいです。私は生まれつきなので、障害があるというよりも「こういうことができない」と思っている部分が強くて。自分のことを障害者だと意識していない。本来は区別すること自体がおかしいですよね。
話を聞くと、表記については周囲の人たちが過剰に言い争いすぎているようにも感じられた。肝心なのは表記よりも、世の中のバリアを着実になくしていくことなのだ。
しかし、漢字表記について家族からは「嫌だな」という声もあったという。