
4月、米『オートモーティブ・ニュース』で公開された豊田章男会長のインタビューを特別掲載。曾祖父・佐吉から続くトヨタのDNA、社長時代の苦難、そして次代への想いを語った。
大輔氏への想い
――息子の大輔氏は、どのように豊田家の功績を引き継いでいくのでしょうか?

彼は私の息子ですが、全く別の人間です。彼には彼自身のユニークな人生があります。
なので、私が経験したことで彼を訓練すべきではないと思います。私が身に付けたすべての技術を彼が身に付ける必要はないと思います。
実は、彼に受け継いでほしいと思うことが1つだけあります。それは、私がマスタードライバーであるという事実です。メーカーにとって、マスタードライバーはブランドの味を決める人です。今とは異なる味になる時代がおそらく来るでしょう。トヨタがどのような味を持つのか、レクサス、GRなどがどのような味を持つのかは常に判断する必要があります。だからいつか、この部分を受け継いでくれるといいなと思っています。
――あなたとどちらが優れたドライバーですか?
運転は大輔です。でも、クルマの味付けに関しては、まだ私が一歩先を進んでいるかなと思います。大輔のように若くしてスタートした人がどうなるのか楽しみです。私は師匠である成瀬(弘)さんに、50歳くらいの時に運転を教えていただきました。成瀬さんも、私がクルマの味付けについても知っていれば、きっとトヨタにとってもアドバンテージになるのではと見越していたと思います。
――米国の通商政策の変更は、トヨタの米国への新規投資を促すのでしょうか?
トヨタでは、どの国でも常に「町いちばん」の企業を目指しています。この方針の下で、米国内に10カ所以上の工場を設立し、継続的で安定的な投資に努めてきました。また、安定した雇用の創出も目指しています。これは今後も変わらないでしょう。
――業界がEVに傾く中、トヨタがハイブリッドを堅持する自信を持てたのはなぜでしょうか?
カーボンニュートラルという言葉が広まったとき、私たちは「敵は炭素」と言いました。CO2を減らすためには、今何ができるかに焦点を当てる必要があります。これが私たちの決定の土台です。この部分は当時から変わっていないですし、今後も変わりません。
これまでに販売したハイブリッド車は約2,700万台です。これらのクルマは、BEV900万台を走らせるのと同じCO2削減効果があります。

しかし、もし日本で900万台のBEVを作っていたら、実際にはCO2排出量を減らすどころか、増やしていたでしょう。それは、日本が電力を火力発電所に依存しているからです。
私たちはすべての選択肢を検討し、あらゆる方向で取り組むべきです。企業として、私たちは一貫して、敵は炭素であると言ってきました。
――トヨタがEVスポーツカーやレースカーを持つ日を想像できますか?
トヨタの中には、電動スポーツカーの開発に情熱を注ぐ人々が常にいます。しかし、マスタードライバーである私にとってのスポーツカーの定義は、ガソリンの匂いとエンジンの騒音があるものです。トヨタは量産ブランドですから、BEVでもアフォーダビリティ(トヨタイムズ編集部注:価格の手ごろさ)を考える必要があります。トヨタがBEVを手頃な価格で提供できるようになったら、その時がマスタードライバーである私がBEVスポーツカーを導入する瞬間かもしれません。
――また、マスタードライバーとして、EVを競技会でレースに出場させることはありますか?
ないです!ワクワクしないですね。なぜなら、1時間以上サーキットを走れないからです。
私がエントリーするのは耐久レースがほとんどなので、今のBEVではクルマのレースにはならないでしょう。充電時間やバッテリー交換などの競争になってしまいます。次のマスタードライバーはその挑戦をしなければならない。それは彼らの仕事です。