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「白い巨塔が戻る瞬間を見てしまった」水素エンジン5年目の挑戦 自動車研究家 山本シンヤ氏インタビュー

2025.06.06

水素エンジンカローラが5年目の24時間耐久レースに挑んだ。そこで今年も自動車研究家の山本シンヤ氏に今回の挑戦について表現してもらった。今回は、富士スピードウェイのキャンプエリアで焚火を囲んでの延長戦も。自動車ジャーナリスト今井優杏さんも加わって、「モータースポーツが文化として根付くために」というテーマで語り合った。

ST-Qの仲間に起きた変化

森田
トヨタはこのS耐という場でモリゾウさんが先頭に立って、そういうことをやって、クルマづくりも変わってきました。

今回であれば、ST-QクラスにSUBARUさんも出ていますよね?  SUBARUさんのここに来た変化というのはどうシンヤさんは見ていますか?

山本
めちゃくちゃ変わっていますよね。  SUBARUって、もともとWRC(世界ラリー選手権)をやっていたじゃないですか。

WRCやっているから「SUBARUのクルマっていいよね」となりましたよね?

今井
かつてはそうですね。

山本
じゃあ、WRCを辞めたらSUBARUは何を持って「いいね」と言えるかって、結構答えに苦しみますよね?  今井さんと僕はニュルに行ってSUBARUの活動も見ているじゃないですか。

今井
そうですね。

山本
やっぱり、彼らは勝って証明をしたいというところはありますよね。ブランド力としていいよねとか言えるけど、何か証明する術が欲しい。

それで、やっぱりモータースポーツはやめちゃいけないって始めたのがニュルの活動、SUPER GTの活動でしたが、そこの目的の一つには、「勝つ」というのがあるんですよ。

「勝つ」ということは他のクルマと競い合って、一番頂点にいることを証明できるじゃないですか。そういうところでSUBARUは、すごい人材が育ってきた。

勝つためには、どうするかをいろいろと考えますよね。テストコースで走るとか、 サーキットでも、占有走行でテストすれば、もっと安くテストできるじゃないですか。

だけど、あえて(レースという)ライバルがいるなかで戦うことで、自分の居場所を知る。例えばマツダさんより遅いよねってなったら、やっぱり悔しいじゃないですか。トヨタさんより遅いよねって言われたら悔しい。

そこにエンジニアの新しい力、アイデアが生まれる。そこはあるんじゃないかなって気がします。そこはトヨタと同じだと思いますね。

森田
BRZをいったん卒業して、今回のS耐では(SUBARU)61号車がハイパフォーマンスX(ハイパフォX)というクルマで行きますということで、(ドライバーの)山内英輝さん井口卓人さんに話を聞いたら「いろいろSUBARU車はこうあって欲しいよねっていうのをガンガン詰め込んでいます」と。

だから、四駆はもちろん、水平対向エンジンを将来残していく。 電動化になってもスバルの四駆はいいんだ。 こんなことを言っていたんですけど、クルマづくりという面で何か変化ってあるんですか? 

山本
クルマづくりで量産車って、やっぱり制約があるじゃないですか。 だけど、ここのST-Qクラスは、量産の域を超えた新しいことができる。そこが一番でかいと思うんですよね。

ただ、SUBARUもここ何年かST-Qクラスに開発のために参戦しているんですけど、やっぱり、何かジレンマに陥ったところがあるらしい。

「なぜやらなきゃいけないんだろう」みたいな「 僕たちって何で頑張っているんだ?」 みたいに一回陥っちゃったんですって。

だけど、トヨタとかマツダが、SUBARUを応援してくれたところがあったみたいです。

「SUBARUさんには水平対向という、あんなにいいエンジンがあるのに、なんで頑張らないんですか? むしろ僕らが欲しいのに!」みたいな。

自分たちは、もしかしたら水平対向をやめなきゃいけないって思っていたんだけど、逆に応援されて「やっぱり頑張らなきゃ」っていう気持ちになったって言いますね。

今井
同じことがマツダのロータリーエンジンでも起こったんです。

山本
あれもトヨタが、すごい応援したみたいですね。

森田
内燃機関をなんとかして残していこうというマツダとSUBARUとトヨタでエンジンをっていう発表がありましたけど、まさにその取り組みをこのS耐の場でやっていると。

今井
消えかけていた火に薪をくべるのが、今のトヨタの役割なのかなという感じがするんですね。

山本
うまいですね(笑)

今井
クルマの会社って大きな船と同じで沈みかけると、もう沈んじゃうんですよ。 その沈んじゃうというのは、モータースポーツとか、スポーツカーが好きな心が消えていっちゃう。恥ずかしくなっちゃうっていう、寸前のところで火をくべたのが、トヨタのこのモータースポーツ活動であり、TGR(TOYOTA GAZOO Racing)だったんじゃないかなって思う。 

森田
自分たちが持っている強みを再発見させてくれた。

山本
自分たちだけで見ていると、自分たちの技術って大したことないみたいに思っちゃうんですよ。メーカーの中で仕事をしていると。

今井
あと売れるクルマをつくらなければいけない。会社は、やっぱりボランティアじゃない、収益を出さなければいけない企業ですから。  

だから、やっぱり売れるクルマをつくっちゃうので、残念ながらモータースポーツに寄ったスポーツカーって、そんなに売れないんですよね。

ここをちょっとシュリンク(縮小)して売れるミニバンとかをつくるのは、企業としては仕方がないけれど、スポーツカー好きだったり、スポーツカーをつくっている人たちの心が、消えかけたときに「こうやってやればいいじゃん」「すごいじゃん」「めっちゃかっこいいやん」みたいなそんなことを言った気がします。

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