
水素エンジンカローラが5年目の24時間耐久レースに挑んだ。そこで今年も自動車研究家の山本シンヤ氏に今回の挑戦について表現してもらった。今回は、富士スピードウェイのキャンプエリアで焚火を囲んでの延長戦も。自動車ジャーナリスト今井優杏さんも加わって、「モータースポーツが文化として根付くために」というテーマで語り合った。
モータースポーツはブランディングではなく、人づくり
森田
モータースポーツってお金かかるし、不況になって会社の業績が悪くなったら「やめよう」とかってやると、クルマをつくる会社なのに、それやっちゃったらもうクルマづくりのところを「何をどうすればいいんだろう?」となってしまう部分があった。そこにモリゾウさんが来たことで、モータースポーツを起点として、ある意味(クルマづくりの)ど真ん中に置いたことによって、クルマが良くなっていくスピードも上がったし、良くなっていく方向性も定まったし、いろいろなことが変化したということですよね。
そこに、他のメーカーの皆さんもやってきて、一緒にやっている場がこのS耐で見られている。
山本
モータースポーツをプロモーションとか宣伝のためにやったら、景気が悪くなったら、やめるのは当然だけど、開発のためにやっているんだったら「もっといいクルマづくり」のためにやっているんだったら、やめる=「あなたたち、何やっているんですか?」ってなりますよね。
森田
トヨタイムズスポーツって、トヨタに所属しているいろいろなスポーツ・アスリートを応援しているんですけれど、企業スポーツって、景気が悪くなるとやめる方向に行くじゃないですか。
でも、トヨタってやめたことないんですよ。 運動部を閉部したことがないんです。それは、トヨタの運動部はブランディングのためにやっているわけでもなく、人材育成のためにやっているから。
アスリートの彼らの姿勢から学ぶことも多いし、これは人材育成でやっていることだから、景気に左右されてやめるとか、そんな考えはさらさらないんだと。
今の話を聞いて、そこと通じるものを感じました。
山本
(モータースポーツは)クルマづくりのためにやっているわけだから、それをやめちゃったらクルマづくりを否定することになっちゃうんですよね。
森田
そう思うと、このモータースポーツをど真ん中に据えて、それが文化になっていくと、クルマづくりで会社としてやるからということだけじゃなくて、見ている人も楽しいし、乗りたくなるし、みんなで幸せになれるような、そんなことを感じました。
山本
文化なんですよねクルマって。ものづくりも、見ることも、運転することもそうだし、全部が文化になって初めて、このS耐24時間が楽しいよねって言えると思います。
森田
モータースポーツを文化にっていうと、モータースポーツを楽しむだけじゃなくて、クルマづくり、それが皆さんの生活にも密着していて、クルマが良くなると楽しいし、産業としても上手く行くし、いろいろなことが広がりを持っていくからこそ、この場を大事にしなきゃいけないというのは、すごく納得感がありました。
今井
良かった。伝わりましたでしょうか、私たちの想い。
森田
2人の熱の高さ、焚き火以上に熱い2人に、ちょっと圧倒されましたけれど、ニュルとS耐、2つが揃う今年、特別な次のフェーズに入る新しい年になりそうですね。
今井
間違いないと思います。
山本
24時間2回ですよ?
森田
2回はきついけど、楽しそうですね。
山本
だから、やっぱり24時間追い続けなきゃいけないんです。 僕の役目としてはね。
森田
耐久レースマイスター(専門家)ですもんね?

山本
いや、耐久レースをずっと取材するマイスターです(笑)。それも24時間寝ないで取材するマイスターですね。
かなり限定的ですけど、24時間やっぱり起きてないと、いつ何が起きるかわからないですからね。
2025年の富士24時間はスタート時に激しい雷雨となりスタートが1時間後ろ倒しとなった。夜間にはクラッシュと濃霧による赤旗中断が朝まで続くなど、やはり、24時間レースはいつ何が起きるかわからない。
この予測不能な24時間レースだからこそ、クルマが鍛えられるだけでなく、人も鍛えられる。