
労使協議会から約4カ月。競争力強化へ職場の取り組みが進む中、見えてきた壁。さらに正味率を上げていくために労使が話し合った。

総合投資は続けられるのか
冒頭、山本正裕 総務・人事本部長が賃金・賞与における一人ひとりの力を引き出す評価や、特に技能職での役割の大きさを考慮した人事制度見直しについて進捗を解説。
続けて現状把握として、5月の決算についても触れ、一層の競争力向上の必要があることを伝えた。
山本正裕 本部長

この2年間、共通して続けてきたことは「人への投資」、それから「未来への成長投資」。いわゆる総合投資ということです。
これは意志を持って、しっかり続けていこうとしてきたことです。なぜこんなことが今このような状況でもできているのかというと、やはり2009年に赤字に陥って以降、現場の皆さんが本当に毎日、毎日一円一円改善を積み重ねてきていただいたこともそうです。それをリードしてくれた会長のおかげもあると思っています。
それがあるから、今どんな環境でも投資を続けられているのですが、私は正直(この先も)、本当に続けられるんだろうかと思ってしまいます。皆さんもそうだと思います。
投資を続けていくことは大事ですが、ただ数字だけ見ると、この足場固めはスローダウンしていないかと見られてもおかしくないと思います。
そうじゃないんです。私たちの足場固めは、スローダウンではなく、競争力をつけていくこと。結果が必ずついてくるものとしていくこと。今まで積み重ねてきた基盤を崩さずにやっていく。
「今その大きな岐路に立っているんじゃないかなと思っています」。山本正裕 本部長の言葉に自覚を強めた一同。
ここからは、現場が直面している課題の共有と会社側の応答が始まっていく。その中で、さまざまな現場において、担当者、チーム(トヨタで言うところの機能*)間での調整について話し合われたシーンがあった。約1時間40分におよんだ今回の労使懇で、一番長く時間が割かれたこの場面から紹介したい。
*ボデーやパワートレーンといったクルマの機能での部署(チーム)を指す場合があるほか、販売や開発といった括りで“機能”と表すこともある。
山本正裕 本部長、山本圭司デジタル情報通信本部長、宮崎洋一 副社長、中嶋裕樹 副社長、そして古賀伸彦 未来創生センター長の5氏のコメントを抜粋する。少し長くなるが、お付き合いいただきたい。
【組合からの声】機能の壁にぶつかってしまう
- 機能を高める活動を進めた結果、横の連携の取りづらさというか、機能の壁というところにぶつかってもがいている。説得に回るが、なかなか折り合いがつかない。双方の水かけ論になってしまい、時間だけが過ぎていく。(クルマ開発支部)
山本正裕 本部長
自分の話してもいいですか?
最近東さんとスイッチ*しました。
*7月1日付で東本部長が総務・人事本部から経理本部に。山本本部長が経理本部から総務・人事本部に異動。
経理を20年以上やってきて、いきなりの人事。全く分かりません。無力になったんですね。その時に、「自分は何をするとみなさんの役に立つんだろうか?」と考えました。
それは人事のことを勉強して、専門性を高めることではない。「豊田会長ならこんな時に何を考えるのかな?」「佐藤さんはどう考えるのかな?」と、今まで使っていなかった時間と頭の使い方に変わっていったんです。
その瞬間に思ったのは、機能を強くするというのは、もっと現場に近い人たちに権限を持ってやってもらわなければいけないということ。
ここ1、2週間のことですが、それぞれの機能には、ずっとそこで育った人たちがいる。それではなかなか変わらないかもしれないということに、私自身が無力になって気づきました。
山本圭司 本部長

機能間のつばぜり合いがあって、なかなか調整できないという状況は前から続いていました。
この議論は、「もっといいクルマづくり」に本当になっているかどうかということに立ち戻るということだと思います。
上位者も担当者も、わからなくなったらそこに立ち戻る。そういう魔法の言葉と言いますか、我々が拠り所にする言葉があるわけです。それが職場の中に浸透してないこと自体が、問題かと思います。
もう1つは、トップダウンっていうのはトップが下に降りること、現場をよく見ることです。担当の皆さんが困っている実態をトップが知らないことも問題があると思うんですね。
(現場から)「トップなんとかしてくださいよ」ということではなく、「トップもっと下に降りてきてくださいよ。全然来てませんよ」という声が上がると健全だと思います。